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社説・コラム

社説 原発の防災計画 形ばかりでは意味ない

 原発事故が再び起きた時、住民の安全をどう守るか。全国にある原発の半径30キロ圏の自治体に義務付けられた地域防災計画が、きのう策定の期限を迎えた。

 対象となる自治体の多くは、まだ策定できていない。計画の基になる原子力規制委員会の指針の改定に、遅れが出たことが背景にあるのだろう。

 法令が定める期限に間に合わせた自治体は、新たな指針を全て反映できていないケースがほとんどだ。

 原発再稼働の前提として規制委は防災対策の充実を挙げ、自治体の計画作りも実質的な条件の一つになるとみられる。それだけに形ばかりの計画であってはならない。

 規制委は昨年10月、原発事故時の防災対策の枠組みとして原子力災害対策指針を決めた。先月末には、原発から5キロ圏で住民の甲状腺被曝(ひばく)を防ぐ安定ヨウ素剤を事前配布することなどを盛り込んだ改定を実施した。

 指針は福島第1原発の事故を踏まえて規制委がまとめたが、自治体からすれば不満が残る内容となっている。

 原発が集中する福井県は、地域防災計画の策定を保留している。規制委の指針は具体性を欠いており、指針を参考にしたのでは実効性ある計画が作れないとの立場だ。

 ヨウ素剤の服用方法や、緊急時の放射線モニタリング体制、具体的な避難区域の指定方法などが指針ではいまだあいまいにされている。福井県の指摘は理解できる面もあろう。

 中国地方の自治体はどうだろう。中国電力の島根原発から30キロ圏にある島根、鳥取両県と松江市など6市が全て、きのうまでに防災計画をまとめた。

 島根県は先月、計画を決めたが、日程の問題で昨年10月段階の規制委の指針しか反映させることはできなかった。そのため5キロ圏へのヨウ素剤の事前配布などは盛り込まれていない。

 県は今後、規制委の指針の改定を防災計画に反映させていくという。今のままの計画の内容であれば、住民は安心できないだろう。

 原子力災害対策の重点区域が従来の半径10キロ圏から30キロ圏に拡大され、初めて防災計画を作る自治体も多い。四国電力の伊方原発の30キロ圏に入った山口県や上関町が防災計画の策定を進めている。

 規制委は7月までに原発の新たな安全基準を策定し、電力会社から原発再稼働の申請を受け付ける見通しだ。安倍政権は再稼働を明言し、経済界も期待を寄せる。

 ただ再稼働の判断には、原発自体の安全性だけではなく、原発がある地域の防災対策をしっかり見極める必要があるのは言うまでもない。

 規制委の田中俊一委員長は「住民の安心感を得られる防災計画を作ることが大事。少々遅れても良い」との考えを示している。

 とはいえ、まずは規制委がしっかりした原子力災害対策指針を作るのが筋だろう。小出しの改定を続けて自治体を振り回してもらっては困る。

 自治体も拙速であってはならない。再稼働ありきではなく、住民の納得が得られる実効性ある計画を、時間を十分かけて作るべきである。

(2013年3月19日朝刊掲載)

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