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社説・コラム

社説 南海トラフ地震 「最悪」踏まえどう対策

 数字に恐れおののくばかりでなく、減災への意識を培う機会としたい。

 東海沖から九州沖に至る南海トラフで巨大地震が発生すれば、最悪で220兆円の経済被害が生じる。政府の作業部会がそんな試算を報告にまとめた。

 作業部会は昨年、地震後に最大30メートルの津波が発生し最大で32万人が死亡するとの予測も明らかにしている。今回、さらに経済的な被害予測などを加えた。

 千年に一度の巨大地震、という想定である。それでも油断すべきでない、というのが東日本大震災の教訓だろう。厳しい数字の公表も、「最悪の被災シナリオ」を踏まえた対策の必要性をアピールするためである。

 被害額は東日本大震災の13倍に当たる。国内総生産(GDP)の4割以上である。建物やライフラインといった資産の被害、生産やサービス活動が止まることによる経済への影響が特に大きい。

 日本の人口の半数が住み、産業と物流の拠点も集積する地域である。それだけ被害は深刻となる。中国地方も例外ではない。広島県は3兆円、岡山県は3兆2千億円に上る。

 一方で今回の報告は、防災努力を積み重ねれば実際の被害は大幅に減らせると強調する。

 これを踏まえ、地域、自治体、企業、国、それぞれが対策を点検すべきであろう。

 広島県では被災から1週間後でも、避難者は18万人と試算された。岡山県は25万人に達する。避難所の数や物資の備蓄量の再検討が求められる。他の自治体やスーパーなどとの協力体制もさらに張り巡らせ、常に機能するようにしておく必要があろう。

 緊急時を見越し、企業は事業継続計画を作成、あるいは見直す。住民は避難ルートを確認し、非常食の備えも増やしておく―。できることから、官民でこつこつと重ねていきたい。

 やるべきことは、あまりに多い。それでも網羅したとはいえない。この想定には原発事故が考慮されていないからである。被害があまりに大きく、試算が難しいのだという。

 地震、津波と原発事故の複合災害を「想定外」としてきたことに猛省を迫ったのが、東日本大震災だったはずだ。原発事故から目を背けてはじき出したデータが、政府の防災への姿勢に影響を与えることにならないか。懸念を抱かざるを得ない。

 災害に強い国土が政治のリーダーシップに懸かっていることは言うまでもない。

 自民、公明両党は南海トラフ地震対策を促す特別措置法案を今国会に提出する構えである。東海地震の予知と、東南海・南海地震の防災対策とに分かれている現行法制を一本化するものだ。加えて与党は、公共事業を柱に災害対策を進める「国土強靱(きょうじん)化」をめぐる基本法案の早期成立も目指している。

 だが南海トラフ地震の被害地域は40都府県に及ぶ。自民党内から「10年間で200兆円」とも漏れ伝わるが、予算は無尽蔵ではない。

 住民の理解を求めながら、政府が優先順位を付けて着実に災害対策を進めることが求められよう。すべては国民の尊い命と財産を守るためだ。公共事業が目的になるのなら、本末転倒である。

(2013年3月20日朝刊掲載)

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