×

社説・コラム

社説 福島第1原発停電 廃炉の過程に不安残す

 東京電力の福島第1原発が停電し、使用済み核燃料の冷却が29時間にわたり止まった。幸い大事に至らず復旧したが、福島県民の不安はいかばかりか。

 第1原発の事故で思い知らされたのは、ひとたびトラブルが起きれば制御ができなくなる可能性があるということだ。「想定外」に備えなければならないのが教訓だったはずである。

 今回の停電を見る限り、教訓が生かされたとはいえない。

 停電により1、3、4号機の使用済み燃料プールを冷やすシステムなどが停止した。プールは原子炉と違い、多重防護の仕組みがない。燃料を冷却できなくなれば、外部に大量の放射性物質が漏れ出す恐れがある。

 原因は何だったのか。仮設の配電盤にネズミが触れ、ショートした可能性が高い。配電盤は原発事故の2カ月後から、トラックの荷台に設置されていた。

 小動物の侵入を防ぐ対策は取っていなかったという。通常の配電盤のように、きちんとしたカバーがないことを考えれば想定できる事態ではなかったか。

 さらに首をかしげるのは、重要な配電盤であるにもかかわらず、バックアップの設備を用意していなかったことだ。

 その理由を東電は「対応に時間的な余裕があるから」と釈明する。プールの水温を冷却できなくても、保安規定上の上限である65度に達するには4、5日かかるという。

 しかし、複数の電源を備えていても、事故を防げなかったのが3・11にほかならない。少なくとも燃料を冷却する基幹部分は、できる限り予備の設備を整えるべきだろう。

 東電は情報公開の点でも、教訓を学んでいるのか疑問である。停電を発表したのは、発生から約3時間後だった。

 点検する場所が多く、現場の確認に手間取ったという。それでも原発事故直後、住民への情報提供が遅れ、適切な避難につながらなかったことを踏まえれば、できるだけ早く第一報を公表する必要があっただろう。

 今回の停電で再認識しなければならないのは、第1原発がいまだに不安定な状態にあるということだ。「冷温停止状態」といっても、一歩間違えれば危機的な状況に陥りかねない。

 おととし末、野田佳彦前首相は第1原発の事故の収束を宣言した。全く現実を見ず、拙速であったことがあらためて露呈した。安倍晋三首相が国会で、収束しているとは簡単に言えないと答えたのは当然だろう。

 仮の設備は配電盤だけではない。原子炉を冷却した汚染水の漏えいを繰り返している配管もそうだ。汚染水をためておくタンクも、溶接されていない仮設のものが大半を占める。

 いまのままの状態では、廃炉に向けた過程にも不安が残る。何十年にも及ぶ作業になる。まずは原子炉や使用済み燃料プールを確実に冷却し続ける体制を整えるのが前提となろう。

 原子力規制委員会は改正原子炉等規制法に基づき、第1原発の廃炉作業の安全性も評価する立場にある。今回の停電について田中俊一委員長は「冷却を確実なものとするよう東電に求めていきたい」とした。

 とはいえ、東電任せで大丈夫なのだろうか。規制委は第1原発の安全性の確保を厳しくチェックしてほしい。

(2013年3月22日朝刊掲載)

年別アーカイブ