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社説・コラム

天風録 「何が地球を救うか」

 鉄腕アトムはもうすぐ10歳になる。創作だから、どこの小学校を探してもいないけれど、2003年4月7日生まれ。人類の日常をロボットが助ける科学万能の未来が、作中では到来している▲しかし現実は人と人の共存さえ危うい。米国はこの年、「大量破壊兵器」の存在を喧伝(けんでん)し、フセインのイラクを攻める。わが国は直ちに支持に回った。やがて「大義」は虚構と分かるが、憎悪の目盛りは戻るはずもない▲その頃、少年のアトムを登場させた漫画が浦沢直樹さんの「プルートゥ」。かの戦争に酷似した世界を描く。大量破壊ロボットを隠し持つ独裁国は誅(ちゅう)すべし―。国連の名の下に機械の戦士たちも動員されたが、真の敵は誰か、帰還してなお苦悩する▲戦士アトムも地獄を見た。しかも市井に暮らす仲間が次々破壊される。報復か。戦いを強いた人間への悪意さえ芽生える。だがプルートゥなる暗殺者のロボットを生んだのは、空爆で子を失った親たちの憎悪だった▲○○を火の海にするという、為政者の言が外電で飛び交う。政治のあやか、感情からほとばしるのか。「プルートゥ」終幕、アトムは暗殺者と和し地球を救うが、現実は10歳のロボットに頼れない。

(2013年3月23日朝刊掲載)

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