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社説・コラム

社説 原発の汚染水漏れ 「収束」には程遠い現実

 事故から2年余りたった今も綱渡りの作業が続いている現実を思い知らされる。

 福島第1原発の敷地内にある地下貯水槽から、放射性物質を含んだ汚染水120トンが漏れ出していることが分かった。さらにきのう、別の貯水槽でも水漏れした恐れがあると東京電力が発表した。

 おととしの12月に政府が「収束」宣言を発して以来、最大規模の漏水である。事故後、東電は大量の汚染水を海に流し、太平洋沿岸諸国から厳しい批判を浴びた。海洋汚染の再発は何としても食い止めねばならない。

 今回は現場が海岸から800メートルほど離れていることなどから、東電は「海に流れた可能性は低い」とする。では120トンはどこに消えたのだろう。

 一般に地下水の流れをつかむのは容易ではない。東電はしっかりと検証し、事態を明らかにする責任がある。

 増え続ける汚染水は、原発の事故処理で当面、最も厄介な問題といえる。たまった水量は既に26万トンを超す。貯蔵タンクの増設が追いつかず、窮余の策として導入したのが地下貯水槽だった。地面に穴を掘り、遮水シートを敷いた施設である。

 7カ所造ったうちの2カ所が早くも水漏れしたことで、この方式に対する信頼は大きく損なわれた。汚染水の貯蔵計画は抜本的な見直しが避けられまい。

 とはいえ、第1原発では今も、壊れた原子炉を冷やすための水を注入し続けている。加えて建屋の地下などに日量400トンの地下水が流れ込み、汚染水の量を一層増やしている。

 回収し、セシウムを取り除く処理をした水の一部を再び冷却に回しているが、残りは地下貯水槽で保管せざるを得ない。

 それなのに根本的な対策を講じることなく、応急処置を繰り返してきた弱みが露呈したとはいえないか。

 先月には使用済み核燃料の貯蔵プールで冷却できなくなる事故が起きている。仮設の配電盤にネズミが触れてショートし、停電したという。

 その場しのぎの対策頼みでは、肝心の安全確保がおろそかになってしまうということだろう。相次ぐトラブルから東電は教訓を得るべきである。

 東電は先月末、原子力部門改革の最終報告書をまとめ、経営陣の意識改革などを挙げた。企業体質はしかし、特段変わったように見えない。

 汚染水漏れの公表は、事実の把握から2日後にずれ込んだ。「まず、きちんと調べようと思った」というのが釈明である。またか、との思いを抱いた人も少なくなかろう。

 福島県外に避難している住民にとっては、古里に帰還できるか否かの判断にも影響しよう。一部には沈静化しつつあった、農作物や海産物の風評被害を再燃させかねない。

 事態を深刻に受け止めるべきは政府もまた同じである。第1原発を「特定原子力施設」に指定している原子力規制委員会の対応が問われよう。安全対策を監視する立場にある。貯水槽に対する不断のチェックが、どれだけ行われていたのだろうか。

 困難な作業は続く。将来、廃炉作業に入ればなおさらだろう。東電任せともいえる現状のままでいいのかどうか。問い直すべき時機にきている。

(2013年4月8日朝刊掲載)

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