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社説・コラム

社説 「エリア567」訓練 なぜ住民に情報伝えぬ

 岩国基地などの米軍機が、西中国山地の上空をわが物顔で飛び回るようになって久しい。

 「エリア567」と呼ばれる訓練空域があるからだ。本来は航空自衛隊に提供されたものを米軍が堂々と使っている。

 その実態を裏付ける資料が、防衛省から明らかにされた。日本側の基地との事前調整の中身である。過去2年余りの間に少なくとも453日、2582時間もの米軍機の飛行があらかじめ通告されていたという。

 頻度にも驚くが、何より疑問なのは地元の自治体や住民に事前の情報を全く知らせなかった日本政府の姿勢である。強い憤りを抱かざるを得ない。

 自衛隊の空域を米軍が活用するケースは全国で共通している。今回の情報開示は、現状を調査してきた共産党の国会議員の求めに応じたものである。

 米軍機は日米地位協定に基づいて訓練の自由が認められているが、自衛隊の基地とは一定に協議しておく取り決めがあるという。その具体的な内容が、初めて表に出た格好になる。エリア567を抱える広島県や島根県などの自治体に大きな衝撃をもたらしたのは間違いない。

 広島県内の場合、各市町の米軍機の目撃情報を県が集計して年に2回、外務省や防衛省に訓練中止を求めている。だがいくら実態をただし、情報開示を求めても「米軍の運用だから分からない」の一点張りだった。

 従来の説明とは明らかに矛盾しないか。情報を隠していたと言われても仕方あるまい。

 そもそも、これほど多くの訓練通告を受けても日本側は全くもの申さなかったのだろうか。

 エリア567に関しても、自治体の抗議などで深刻な被害が国に伝わっているはずだ。

 日常的な騒音だけではない。平気で学校や保育園の上を低空で飛び、子どもたちが恐怖心を抱くことも多い。さらには戦闘機の衝撃波で建物の窓ガラスが割れるケースも相次ぐ。業を煮やした浜田市などでは騒音測定装置を備え、監視網を強化する動きが広まっている。

 防衛省に言わせると、事前協議の目的は航空機同士の事故などの回避だという。それなら訓練空域の下の住民の危険はどうでもいいのか。むしろ米軍側の野放図な訓練に歯止めをかける場とするのが筋だろう。

 今回、情報が出てきた背景も注視しておく必要がある。

 沖縄に配備された垂直離着陸輸送機MV22オスプレイの本土訓練に反対し、各地の自治体から訓練計画の開示を求める声は強まるばかりだ。

 岩国を拠点にした3月の初訓練では、不十分ながらも事前告知があった。もはや日本政府として米軍機の動きに「知らぬ存ぜぬ」では通らない局面になっているのは確かだ。

 半面、開き直って実態を認めることで、なし崩し的に訓練を固定化させていく意図はないのだろうか。

 住民の不安を無視し、米軍の言うがままなら対等の同盟関係とは到底いえまい。

 現に米軍基地がある以上、即時の訓練中止は厳しいとの見方もある。だとすれば今後は日本側への事前通告を包み隠さず公表し、住民に注意を促す手だてが最低でも必要ではないか。それは、オスプレイであろうとなかろうと変わらない。

(2013年4月16日朝刊掲載)

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