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社説・コラム

社説 日露共同声明 まず信頼醸成を着実に

 「大戦後67年を経てなお平和条約がないのは異常」。安倍晋三首相とロシアのプーチン大統領が認識を一致させ、共同声明を発表した。条約締結を目指して、領土問題の解決へ交渉を加速させる。

 声明の軸となっているのは、ウィンウィンの関係が成り立つエネルギー・経済分野での協力である。さらに防衛面での連携も盛り込んだ。日ロの双方に東アジア情勢の安定化を図りたい思惑がある。

 しかし、肝心の領土問題の解決はまったく見通せない状況である。

 北方四島返還を求める日本と、せいぜい2島引き渡しで済ませたいロシア。首相は「交渉加速化の合意は大きな成果」と強調したが、隔たりは大きい。

 領土問題は両国間に長らく横たわってきた。進展が期待された時期もあったが、最近は停滞している。

 打開に向けて、首脳の相互訪問、外相の年1回以上の行き来など、交渉を密にしていく方針は評価できる。だが、共同声明の中で領土問題は直接言及されず、解決には相当の時間を要するだろう。経済面での連携から信頼関係を深めていきたい。

 ロシアが共同声明の中で最も企図するのは、日本から経済協力を引き出すことだろう。

 米国のシェールガス産出によって宙に浮いた天然ガスの輸出先探しと、極東シベリアの開発が目下、最大の課題となっている。天然ガスを日本へ輸出するとともに、極東シベリアへの日本企業の投資や進出を取り付けたい思惑が見える。

 日本としても経済協力から溝を埋めていくしかなかろう。

 原発停止で火力発電燃料のコスト増に苦しむ日本にとって、ロシアの天然ガス資源を安定的に確保できるなら魅力的に違いない。

 だが、体よく経済協力だけ引き出されて、領土問題は進まないという結果になりはしないか。本音をしっかり見極めて領土返還を迫っていく、タフな交渉が求められよう。

 プーチン大統領の権威に陰りが出てきたことも懸念される。できるだけ早期に糸口を探り、妥協を取り付けたい。

 北方四島の一括返還が筋ではあるが、平和条約の枠組みづくりへ、まず2島を先行返還するよう迫るのが現実的な方策でもあろう。後がないという危機感を持って政府は折衝に臨んでもらいたい。

 一方、2月にロシア戦闘機2機が北海道利尻島沖で領空を侵犯した。昨年度、ロシア機に対して自衛隊機が緊急発進した回数は248回に上り、中国機への発進回数に次ぐ。共同声明に盛り込んだ外務・防衛閣僚級協議(2プラス2)により、事態の改善を図る必要がある。

 さまざまな分野において、日ロの関係が強化されれば、東アジアの緊張を高めている中国へのけん制という意味でも機能するだろう。

 尖閣諸島をめぐる中国との摩擦や韓国が実効支配する竹島に比べ、北方領土への国民の関心は薄まっている。

 両国間の交渉が停滞してきた要因の一つは、頻繁に首相が交代した日本の政権の不安定さである。10年ぶりの共同声明を軸に、ロシアと外交パイプの再構築を急がねばならない。

(2013年5月1日朝刊掲載)

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