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社説・コラム

社説 憲法96条 「3分の2」意味考えたい

 改憲論議がかつてなく活発になる中で、憲法記念日をあす迎える。日本国憲法の施行から66年。現実味を帯びる改憲の是非について、しっかり考えたい。

 自民党は党是として自主憲法の制定を掲げてきた。昨年12月の衆院選では、改正要件を定めた憲法96条の緩和を訴えた安倍晋三総裁が圧勝した。首相はこの機を逃すまいと、参院選でも争点にしたい意向のようだ。

 現憲法は改正要件として、衆参各議院の総議員の3分の2以上の賛成で国会が発議し、国民の承認を得なければならないと定める。首相は「3分の2」を「過半数」に緩めるよう主張している。

 憲法が他の法律より厳しい改正要件を課しているのは、立憲主義の考えからにほかならない。近代以降の憲法は、個人の権利や自由を保障するため国家権力を制限するものと世界的に理解されている。時の政権が簡単に憲法を変えにくいよう工夫してある。

 そうした本来の意味を忘れてはなるまい。安倍政権に限らず、どの政権であっても勢いに任せて改正要件を緩和することは慎むべきだろう。

 改正や修正の要件が厳格な憲法は硬性憲法と呼ばれ、世界の多くの国が採用する。例えば、米国は両議院の出席議員の3分の2以上の賛成に加え、全米の4分の3以上の州議会の賛成が求められる。ドイツも両議院でそれぞれの総数の3分の2以上の同意が必要になる。それでも両国は何度も憲法を修正したり改正したりしてきた。

 こうした外国の例と比べると、日本の改正要件が厳しすぎるということにはなるまい。なぜ一度も変えられなかったのかといえば、要件の問題ではなく、多くの国民が改正を望んでこなかったからではないか。

 96条の先行改正については与党内でも意見が分かれる。連立を組む公明党は党内の議論の結果、立憲主義を重視する立場から「慎重に扱うべきだ」との方針を示すという。

 一方、96条の先行改正に賛成しているのは、自民党に加え、野党の日本維新の会や、みんなの党である。安倍首相はこれらの党と連携し、先行改正を実現したい考えだ。

 しかし憲法改正を訴える各党も、その思惑は異なっている。自民党が目指すのは9条の改正である。自衛隊を国防軍とし、集団的自衛権も容認する考えだ。これに対し、維新の会やみんなの党は統治機構の改革を掲げ、一院制や首相公選制の導入を求めている。

 時代と社会が変化する中、憲法を全く変えてはならないということはないだろう。ただし、改正する中身の議論は棚上げし、とりあえず変えやすいように手続きだけを先に緩めるというやり方はいかがなものか。もっと十分な時間をかけて議論する必要がある。

 まず各党は憲法の中身をどう変えたいのか、正々堂々と国民に訴えるべきだ。自民党も改憲草案を出しているとはいえ、さらに国民の理解を得るよう努めなければなるまい。

 参院選では96条の改正が争点の一つになるのは確かだろう。手続きだけの問題ではなく、国のかたちを大きく変える選択になるかもしれない。それだけに有権者の意識も問われよう。

(2013年5月2日朝刊掲載)

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