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社説・コラム

社説 憲法の理念 現実の方を近づけよう

 きのうの憲法記念日に合わせて各政党は談話を発表、それぞれ憲法改正に対する考えを表明した。国会が主導し、改憲をめぐる議論を進めている。

 ただ気になるのは、その国会がどれだけ憲法を順守しているのかということだ。

 国会議員は国の最高法規である憲法を尊重する義務を負っている。にもかかわらず衆参両議院とも「1票の格差」をめぐる訴訟で違憲判決が続いている。国の最高法規を軽んじてきたと言われても仕方あるまい。

 時代が変わり憲法と現実がかけ離れた場合、憲法を改正するのは一つの方法だろう。一方で、原点に戻って憲法の理念に現実を合わせる努力も求められるのではなかろうか。

 憲法14条は、すべて国民は法の下に平等であると定めている。だが住んでいる地域で国政選挙の1票の重みが著しく異なる状態が放置されてきた。

 昨年12月の衆院選の「1票の格差」をめぐり全国14の高裁・高裁支部で争われた訴訟では、すべて違憲または違憲状態の判決が出された。そのうち広島地裁と岡山支部は選挙無効を言い渡した。今秋には最高裁の判決があるとみられるが、無効の判断もあり得る。

 違憲の状態で選ばれた国会に、憲法の改正を議論する資格があるのかどうか、議員は胸に手を当てて考えてもらいたい。

 与党は衆院の「1票の格差」を是正するため、小選挙区定数の「0増5減」を実現する公選法改正案を今国会で成立させる意向だ。それだけでは十分ではあるまい。さらに踏み込んだ格差是正に取り組むべきだ。

 成年後見人が付くと選挙権を失うと定めた公選法の規定も、14条の「法の下の平等」をないがしろにしていたといえる。被後見人で知的障害のある女性が選挙権の確認を求めた訴訟で、東京地裁は3月、公選法の規定は違憲で無効とし、女性の投票権を認めた。

 自民、公明両党は、成年後見人が付いても選挙権を一律に付与する公選法改正案を今国会に提出するという。だが対応は遅すぎたと言わざるを得ない。

 さらに、憲法25条が掲げる生存権も揺らいでいる。条文には、すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有すると定められている。

 東日本大震災の被災者たちの生存権が守られているとは、とてもいえない。まだ30万人を超える人たちが仮設住宅などで避難生活を余儀なくされている。

 とりわけ福島第1原発の事故の影響により、福島県では15万人が県内外に避難している。原発に近い地域は依然として放射線量が高く、住民はいつ古里に帰れるのか、見通しが立っていない。

 改憲より先に、被災者の暮らしの再建に向き合わなければならないのは明らかだ。

 これらの問題から見えてくるのは、憲法の理念に対する現実政治の認識の甘さである。

 憲法が掲げる理念は、国民主権、基本的人権の尊重といった普遍的なものに限らない。多くが現代でも十分、通用する。

 何より政治は憲法の理念を踏まえ、目の前の問題を解決するため、最大限の努力を尽くさなければならない。その後で改憲に取り組んでも決して遅くはないはずだ。

(2013年5月4日朝刊掲載)

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