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社説・コラム

社説 トルコへ原発輸出 経済優先には懸念残る

 日本がトルコへ原発を輸出することが固まった。福島第1原発事故後は停滞していた原発の輸出が、安倍晋三首相の下で活発化する気配である。

 総事業費2兆2千億円の巨大プロジェクトという。原発関連の設備や技術の輸出が広がれば、日本経済の活性化につながるという見方は強い。

 ただ安心・安全面での懸念はいまだ拭えない。福島の事故原因は全容が解明されたとはいえず、しかも大量の汚染水対策が難航するなど事故の収束にも程遠い状況だ。こうした局面で原発輸出に向けた政府の前のめり姿勢自体が理解しがたい。

 計画では、黒海沿岸に原発4基を新設するという。トルコ入りした安倍首相が3日、エルドアン首相と会談し、日本が優先的な交渉権を得ることなどで合意した。

 トルコは日本と同じ地震国である。だからこそ福島の教訓を生かすという日本企業に期待したとトルコ側は説明する。経済成長を急ぐため、電力の安定供給を図る必要に迫られた背景もあるようだ。

 確かに世界では2030年までに最大370基の原発の新増設が見込まれている。1基当たり数千億円のビジネスだ。

 海外に活路を見いだす国内メーカーを安倍政権が後押しすることが、国際的な競争力強化につながる面はあろう。原発の輸出促進は、政府が6月にまとめる成長戦略でも柱の一つとなる見通しである。

 7月の参院選を前に、トルコへの輸出を「成果」としてアピールしたいのかもしれない。

 とはいえ原発をめぐる日本政府の姿勢は、国内外で整合性がとれているとは言い難い。

 今回、安倍首相は「安全な高い水準の原子力技術を提供したい」と強調した。民主党政権時代の「原発ゼロ」政策を外向けには修正した格好だ。

 一方で国内向けには、長期的な原発政策をあいまいにしたままである。原発の新たな規制基準案にしてもこの4月に固まったばかりで、今後の再稼働や新増設について具体的な方針を示してはいない。

 そうした国内状況なのに、海外では安全だとアピールし積極的に輸出する。それで果たしてトルコだけでなく、万一の際に影響を受ける近隣国の国民が納得するだろうか。

 あるいは輸出拡大をてこに、いずれ政府は国内でも原発推進へと方向転換を明確にするのではないか。そうした疑念も抱かざるを得ない。

 忘れてならないのは、福島の事故原因はまだ解明途上ということである。

 政府や国会など四つの事故調査委員会は昨年7月までにそれぞれ報告書をまとめている。ところが津波以前の揺れで原発の重要機器がどこまで損傷したのかや、メルトダウン(炉心溶融)しなかった4号機の建屋を爆発させた水素の発生源については、見解が分かれている。

 こうした点を中心に今月1日、原子力規制委員会が事故原因をあらためて分析する検討会の初会合を開いたばかりだ。

 抜本的な安全対策の確立には真の原因究明が大前提であろう。輸出の前に政府がやるべきことは明らかだ。それこそが、国内外から求められる日本の責務にほかならない。

(2013年5月6日朝刊掲載)

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