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60年代の原爆作品 再上映 広島で映画祭

■記者 道面雅量

 1960年代後半、ベトナム戦争や日米安全保障条約への反対運動を背景に原爆のテーマに向き合った2本の映画が11月、40年余りの時を経て広島市で上映される。故白井更正監督の「ヒロシマ1966」(1966年)と、尾道市出身の森弘太監督(71)の「河 あの裏切りが重く」(1967年)。解散した独立プロの作品で、ほとんど再上映されてこなかった。

 現存する希少なフィルムや権利関係者を、市民有志が隔年で開く「ヒロシマ平和映画祭」の実行委員会が探し出し、上映にこぎ着けた。今年の映画祭のオープニングを飾る。実行委代表の記録映画作家、青原さとしさん(47)は「原爆映画史の埋もれた部分に触れる機会になりそう」と話す。

ヒロシマ1966 名作踏襲の映像美

 加藤剛、望月優子が主演。原爆を描いた世界的名作とされる日仏合作映画「ヒロシマ・モナムール(邦題『二十四時間の情事』)」(アラン・レネ監督、1959年)のチーフ助監督を務めた白井監督が、大映(現角川映画)からの独立第1作として撮った。

 原爆資料館のそばで土産物を売る被爆者の母子家庭のままならない生活と、安保闘争に挫折し、ベトナム戦争に屈折した思いを抱く男女の医師の物語が並行して展開する。「ヒロシマ・モナムール」に重なる映像美を見せる。

 フィルムは16ミリと35ミリの各1本を東京国立近代美術館フィルムセンターが所蔵していた。いずれも1990年代に個人が寄贈。16ミリには映写傷、35ミリは一部欠落がある。

 同センターのとちぎあきら主任研究員は「1960年代後半にブームだった独立プロの作品は、大島渚監督など大手が配給したもの以外、多くが忘れ去られ、フィルムも散逸の危機にある」と話す。寄贈を受けて以降、今回が初の一般公開となる。

 <上映日時>16ミリ版は11月20日午後7時、広島市南区の市留学生会館。35ミリ版は21日午後3時15分と24日午後7時半、中区のサロンシネマ。

河 あの裏切りが重く 「復興」のまやかし

 佐藤慶、原泉らが出演する劇映画だが、爆心地近くのバラック街などを撮ったドキュメンタリーも半分を占める。当時20代の森監督が大映を退社して制作。独立プロを支援したATG(日本アートシアターギルド)が配給した。

 安保闘争の挫折感を抱える男が広島をさまよい、被爆者の悲惨な現実に触れ、彼らを置き去りにした「復興」のまやかしを思う。物語の脈絡を断ち切るような場面展開が多く、やはり「ヒロシマ・モナムール」の影響がみられる。

 森監督はその後、東京でテレビ番組のディレクターなどを務め、今は尾道市に一時帰郷している。「広島での完成試写会では、詩人の故栗原貞子さんらが評価してくれた」と振り返る。

 フィルムは都内の友人宅に預けていたネガが辛うじて現存。2001年、川崎市市民ミュージアムが上映用に再プリントした。「あれから40年以上たつが、問題は何も解決していない。『核の傘』にすがる日米安保も、国の責任を明確にしない被爆者援護も」と森監督は言う。

 <上映日時>11月21日午後5時と23日午前11時、広島市中区のサロンシネマ。

ヒロシマ平和映画祭
 被爆60年の2005年から隔年で開催。「平和」を考える素材として新旧の映画を上映する。今年は11月20日から12月11日にかけ、広島市内の約10会場で約50本を予定。討論会や展示もある。事務局Tel080(6306)8689。

(2009年10月25日朝刊掲載)

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