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社説・コラム

社説 シリア情勢緊迫化 何としても停戦実現を

 シリア情勢が混迷の度合いを深めている。

 宗派の対立が悪化し、内戦状態となって2年が過ぎた。政府側の武力弾圧などにより、およそ7万人が死亡したとされる。さらに今月に入ってイスラエル軍もシリアを空爆した。シリア政府は報復を示唆し、イスラエルを敵視するイランも反発を強めている。

 このままでは、イスラエルや米国、イランなどを巻き込んだ紛争へと広がりかねない。国際社会は、何としても内戦の停止実現へ早期に連携することが求められる。

 シリアでは、イスラム教少数派アラウィ派に属するアサド政権が、父と子で40年以上権力を握ってきた。2011年に、中東の民主化運動「アラブの春」を機にデモが起き、アサド政権が武力で弾圧。以来、泥沼の内戦状態が続く。

 ここにきて事態が深刻化したのは、国際法に違反して、化学兵器のサリンが使用された可能性が出てきたためだ。

 シリア政府側が使用したとみられているが、反政府軍が使った可能性も排除できない。いずれも決定的な証拠がなく、このことが国際社会の仲介を難しくしているともいえよう。

 気になるのは、米国が反体制派への武器供与や、軍事介入など「すべての選択肢」を検討し始めていることだ。

 ブッシュ前政権下ではイラクの大量破壊兵器に関する誤った情報に基づき、泥沼のイラク戦争へ突き進んだ。その失敗を忘れてはなるまい。

 むしろ米国は、イスラエルに自重を促すべきであろう。イスラエルはアサド政権と長年敵対し、今回空爆に踏み切った。アサド政権が高性能のミサイルを民兵組織ヒズボラへ移送することを阻止した、としている。ただこうした空爆は、報復の連鎖を招くだけであろう。

 これまで国連は、機能不全と言わざるを得ない状況が続いてきた。

 国連安保理は、アサド政権をめぐって、退陣を求める米国、英国、フランスと、同政権に近いロシア、中国とが対立。シリア制裁に関する決議案に対して、ロシアが3度も拒否権を行使してきた。

 しかしここにきて、事態打開を図る動きも出ている。米国とロシアは、シリアのアサド政権と反政府勢力を交えた国際会議を今月末にも開く方針で一致した。アサド大統領退陣を視野に入れた「移行政府」樹立についても協議するという。

 退陣を求めてきた米国と、政権の後ろ盾となってきたロシアが歩み寄る意義は大きい。国際社会は、この貴重な政治解決の枠組みを支援していくことが求められる。米国とロシアが再び仲たがいしないよう、協議を粘り強く支援したい。

 交渉の過程では、やはり国際秩序の中核であるべき国連が関わる必要も出てくるだろう。将来的には、カンボジア内戦終結後にならって、国連が暫定統治機構をつくり和平へのプロセスを積極的に支援することも一案ではないか。

 このまま紛争が長引けば、報復が相次ぎ中東全体に戦火が拡大しかねない。尊い人命がさらに奪われるだろう。今こそ国際社会は停戦へ手だてを尽くす時である。

(2013年5月9日朝刊掲載)

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