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社説・コラム

『中国新聞を読んで』 平尾順平 実伴わぬ「平和」批判を

 核拡散防止条約(NPT)再検討会議の準備委員会を伝えた4月25日付朝刊は、「核兵器の人道的影響に関する共同声明」の一部の文言が受け入れられないとして、日本が賛同しなかったと報じた。

 70以上の国が「核の不使用は人類の利益」になると賛同した。「唯一の被爆国」と繰り返してきた日本の姿勢は、他の国から見ると二枚舌の極みであり、憤りを超えて滑稽にさえ映ったのではないか。

 米国やロシア、中国などの核保有国が加わっておらず、核兵器の完全撤廃も前提にしていない「NPT」の枠組み自体に議論の余地はある。それでも、米国の核の傘に守られ、親分に配慮(遠慮)して何も言えない日本の姿勢は残念だ。

 外交トップの外相に広島市選出の衆院議員が就いても状況は変わらず、あらためて人道的な利益よりも経済的な利益を優先する国の姿勢が印象づけられたように思う。

 今回の日本の判断に対し、広島、長崎両市長が遺憾の意を示した。一部の平和関係団体も強い憤りを示しておられる。しかし、国民はもちろん、広島県民、広島市民の大きな関心事にはなっていない印象がある。

 「唯一の被爆国」である日本。「国際平和文化都市」を自称する広島市。「国際平和拠点都市ひろしま構想」を発表した広島県。それぞれが、名実相伴う存在であってほしいと強く思う。そのためには国民、県民、市民である私たちが興味を持ち、自分のこととして関与し続けなくてはならない。

 中国新聞は、他の新聞にない「平和」と題した常設紙面を持ち、長年の「平和報道」の歴史がある。広島のアイデンティティーの形成に大きな影響力を持つ地元のマスメディアとして、「平和」に対して敏感で、同時に内実が伴わない「平和」には批判的であってほしい。

 「70年は草木も生えない」ともいわれた被爆地が、あと2年でその年を迎える。言葉だけではなく、本当の意味で緑豊かな平和都市となるために、県民、市民も巻き込んだ「オール広島」として平和の在り方をいま一度考え、体現していく必要があると思う。(読者モニター=広島市)

(2013年5月13日朝刊掲載)

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