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社説・コラム

社説 もんじゅ点検漏れ 「運転再開」あり得ない

 福井県敦賀市の高速増殖炉原型炉もんじゅに対し、原子力規制委員会は原子炉等規制法に基づき、運転再開に向けた作業を見合わせるよう命じる見通しだ。1万点近い機器の点検漏れが理由である。

 運転停止中という気の緩みがあったのか。それにしても福島原発事故後の昨年11月に発覚しており、職業モラルの欠如と言われても仕方あるまい。

 敦賀市の河瀬一治市長は「(点検漏れの)調査が終わっていない段階で、運転の準備をするのはいかがなものかというのは理解できる」と述べている。日本原子力研究開発機構(原子力機構)は経営陣と現場の意思疎通の不足などを認めているが、原因はそれだけだろうか。

 もんじゅは安全性とコストの両面でかねて問題が多い。規制委は安全管理体制を問題視しているが、運転再開までの期限が設けられない可能性もあり、事実上、廃炉への道につながることになってもおかしくない。

 もんじゅは臨界に達した翌年の1995年、冷却に使うナトリウムが漏れる事故を起こし、情報隠しも露呈した。2010年、15年ぶりに運転を再開したが、すぐ炉内で機器が落下し、そのまま停止している。

 高速増殖炉はプルトニウムとウランの混合酸化物(MOX)燃料を使う。軽水炉など一般的な原子炉と違い、運転で消費した以上の燃料を生み出す「夢の原子炉」だった。国が計画して40年余りの歳月が流れたが、もんじゅが仮に軌道に乗っても実証炉での試験が必要であり、実用化には最低でもさらに40年かかるという。

 稼働しなくても維持費などで年間約200億円が費やされ、投資総額は1兆円を超える。常識では考えられない、巨額の浪費をまだ続けるのだろうか。

 もんじゅは青森県六ケ所村の使用済み核燃料再処理工場とともに核燃料サイクルを構成する。MOX燃料に使うプルトニウムは、使用済み核燃料を再処理して取り出す。

 しかし、プルトニウムの使い道がなければ、そのサイクルは成り立たない。しかも、使用するあてもないままプルトニウムをためこむことは、核不拡散の側面から日本が国際社会の批判を浴びる恐れがある。

 青森県は単に使用済み核燃料の保管基地となることは拒否している。もんじゅの運転再開見合わせを機に、核燃料サイクルは見直すべきではないか。

 また、規制委は原発敷地内の断層調査で事業者の言い分を覆し、活断層リスクを厳しく指摘している。国の指針によると、活断層の上に原子炉の設置は認められない。

 若狭湾の「原発銀座」では、日本原子力発電(原電)の敦賀原発2号機などがこれまで指摘を受けた。もんじゅも調査対象に含まれている。

 安倍晋三首相はきのうの参院予算委員会で核燃料サイクルについては「継続して進める考えだ」と述べた。

 規制委は野田政権下で発足したが、独立性が揺らぐことはないと、田中俊一委員長はかねて強調している。

 今回の「命令」の検討もその意思表示と思えるが、核燃料サイクルという名の「国策」が相手であっても、その姿勢を貫いてほしい。

(2013年5月14日朝刊掲載)

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