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社説・コラム

『潮流』 3年抱っこ

■文化部長 下山克彦

 支持率が高止まりする安倍政権。経済再生に力点を置く「安全運転」だけでなく、少しずつ安倍カラーをにじませ始めた。そもそも安倍カラーとは何か。

 参院選を前にした改憲志向はその最たるものだが、女性を意識した施策にも強くそれを感じる。タカ派、保守的家族観、教育観といったところだろう。ただ、ここにきて、少々不安を覚える。そんなマッチョなカラーが市民感覚と一致しているとは思えないからだ。

 育児休業3年の推進もその一つ。いわゆる「3年抱っこし放題」は安倍首相が「どうしても」とこだわった成長戦略だ。事務方は対応に追われたとされるが、それはそうだろう。保育所の整備や短時間勤務など、従来の子育て施策との整合性は取りにくい。

 確かに耳には心地よい。だが、3年の休業は、女性のキャリア形成には大きなマイナスだ。子ども2人なら6年。現場復帰すら容易でない。企業に待てというのも難しい。「女性は採用するな」との風潮が生まれかねないだろう。

 それでも首相は突き進む。「女性に優しい自民党」を参院選のキャッチフレーズにする構えだ。自民党内や保守層にある「子育ては女性の仕事」との感覚が後ろ支えしているのだろうか。ご本人も「3歳までは家庭で」と信じて疑っていないふしがある。

 ただ、考えてほしい。育休は原則無給である。今の時代、夫婦の一方の収入が断たれ、それでも暮らしていける家庭がどれだけあるか。だからこそ、経済界は冷ややかであり、当の女性にも賛同の声が広がらないのだ。そんなリアルな生活感覚こそ、国のトップに必要だと思うのだが。

 先の内閣で「KY(空気が読めない)」とやゆされた首相。「再登板」に希望を抱いた人たちもいる。空気というより、民意を読んでもらいたいと思う。

(2013年5月16日朝刊掲載)

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