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社説・コラム

天風録 「原爆施設国立公園」

 原爆に肉親を奪われた人にとっては忌まわしい地名であろう。オークリッジ、ハンフォード、ロスアラモス。高濃縮ウランとプルトニウムをつくり、原爆を組み立てた米国「マンハッタン計画」の3拠点である▲まとめて国立歴史公園に指定しようという法案が上下院の委員会でそれぞれ可決された。昨年いったん否決されたのに、しぶとく息を吹き返したようだ。施設の老朽化が著しく、「歴史資源の保存」が目的なのだと▲とはいえ原爆は戦争を早く終わらせ、多くの米国人の命を救ったと考える人が、かの国には少なくない。施設を残すことで、いち早く核の破壊力を操った「創造力」を誇りたいのが本音ではないのか。広島と長崎への「想像力」は置き去りにして▲疑問はもう一つ。戦後も核開発の拠点であり続け、周辺住民は長らく環境汚染や健康被害を訴えてきた。そうした「負の歴史」をも直視するつもりがあるのか。公園という名称では、覚悟が伝わらない▲核時代の幕開けを知らしめる原爆ドームは世界遺産になった。人類の過ちを記憶に刻むには、公園では物足りないかもしれない。いっそのこと核実験場とともに世界遺産に申請してみては。

(2013年5月18日朝刊掲載)

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