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社説・コラム

『潮流』 「沖縄独立論」の今

■論説副主幹 佐田尾信作

 学生のころから旅してきた沖縄に「居酒屋独立論」なる言葉がある。憂さ晴らしの議論を嘆く意味か、実践を伴えと叱咤(しった)する意味か。だが先日、かの地で「琉球民族独立総合研究学会」が旗揚げしたと聞いて、時代の変化を思った。

 リーダーの一人が若手経済学者松島泰勝さん。石垣島生まれでパラオ大使館勤務の経験があり、太平洋の島々の独立に学んできた。著書によると、琉球処分も沖縄返還協定も、政治的自己決定権を保障した国際法に違反しているという。

 日本政府は明治の世に軍隊を用いて琉球王国を併合した。1972年の返還では住民投票もなしに米軍駐留を存続させ、沖縄開発庁(当時)を設置した。では私たちは国連で自らの立場を主張し、完全独立を含む政体を住民投票で選ぶ権利がある、という主張だ。

 ところが学会発足直前、中国の人民日報が「歴史上、帰属が未解決の琉球問題」とする論文を掲載した。「現在の領土の枠組みは尊重する」と後日釈明したものの唐突な論である。

 一方、日本国内では沖縄の独立論がこれに呼応するかのような印象を与える報道が一部にあった。これも首をかしげたくなる。

 というのも、松島さんは「沖縄独立は(中国と冊封(さくほう)朝貢の関係にあった)琉球王国の復活を目指さない」と明言しているからだ。そこに「中国帰属」の選択肢はあるはずがない。

 自治・自立の運動の根っこに、米統治の52年から20年間続いた琉球政府の存在がある。立法院に強い権限があった。「琉球検事」という本が昨年世に出て占領下の法曹の苦闘が明らかになったように、司法権も守った。返還前には行政主席の直接公選制を実現した。

 沖縄独立論は日本と沖縄の関係を総括する議論になるかと思うと、気が遠くなる。時には一献傾けながらもあり、かもしれない。

(2013年5月25日朝刊掲載)

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