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社説・コラム

社説 実験施設で被曝 またしても「想定外」か

 またも「想定外」の言葉を聞いた。多くの国民があきれ果てたのではなかろうか。

 茨城県東海村にある日本原子力研究開発機構の加速器実験施設「J―PARC」で研究者ら30人が被曝(ひばく)した上、外部に放射性物質が漏れた事故である。

 機構が保有する福井県敦賀市の高速増殖炉原型炉もんじゅでは重要機器の多くで点検漏れが発覚し、理事長が引責辞任に追い込まれたばかりだ。

 原発との関係が直接薄い基礎研究の施設とはいえ、福島第1原発の事故の教訓を一体、どう考えているのか。組織としての危機感もなさすぎる。

 機構は文部科学省が所管する独立行政法人である。原子力に関わる研究や技術開発の中核として8年前、当時の日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構が統合して発足した。

 実験施設も日本の原子力政策の中に位置付けられていることは変わるまい。放射性物質の管理は厳密でなければならない。

 それなのに被曝と漏えいが起きたのはなぜか。加速器は陽子ビームで特殊な原子核や素粒子の性質を調べる仕組みだが、誤作動によって計画より強いビームが当たったためという。

 事故が起きること自体を考えていなかったと、機構側は説明したが認識の甘さは明らかだ。

 まず気になるのは実験施設の構造上の問題である。もともと漏えいを防ぐ構造にはなっていなかった。放射性物質を除去するフィルターを備えず、内部の放射性物質が発生すれば直接外部に流される仕組みだった。

 実験施設そのものの安全性が問われるのは当然だ。しかも原発と違い、実験施設については放射性物質漏えいを防ぐ対策が義務付けられていない。ほかのリスクも早急に点検し、原子力研究施設の構造や規制の在り方を考え直すべきではないか。

 さらに首をかしげるのは、放射性物質をあまりに安易に外部へ放出してしまったことだ。

 異常を知らせる警報が鳴ったのに安全装置をリセットし、実験を続けたのも問題だが、施設内の放射線量が上昇した段階で何も考えず排気ファンを作動させた点も理解できない。

 原子力施設の鉄則は、言うまでもなく放射性物質を外に漏らさないということである。それを守る意識が全く欠如していると言われても仕方あるまい。

 機構への信頼を決定的に損ねたのは情報開示の遅れだろう。原子力規制庁へ報告したのは、事故から1日半も過ぎた後だった。漏えいが施設内にとどまっていると過小評価したためだとしているが、住民の感覚と大きくずれている。

 原子力施設が集中する東海村では1999年、核燃料加工会社で臨界事故が発生し、周辺住民も被曝した。その経緯からも機構は早急に公表すべきなのに、対応はお粗末すぎる。

 もんじゅに続く不祥事だけに機構の存廃すら問われよう。

 下村博文文科相は「原子力に対し国民が不信感を持っている中で、緊張感が欠けている」と機構の対応を批判した。当然の指摘だが、そんな中でも安倍政権は6月の成長戦略に原発の再稼働を明記する方針という。

 原子力の安全文化が一向に根付かないまま再稼働に前のめりとなる姿勢に、どれほどの国民の理解が得られるだろう。

(2013年5月27日朝刊掲載)

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