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社説・コラム

天風録 「危険な釣果?」

 千匹の魚を差し出すよりも、1匹の魚の釣り方を教えてあげよう。地道な国際協力の現場で交わされる合言葉は、もともとインドか中国に伝わる格言らしい。糊口(ここう)をしのぐ一時の援助ではなく、長い目での自立支援が大切というわけである▲わが国が誇る釣りざおは糸も絡まず、電力という魚がたくさん捕れます―。そんな売り込みが効いたのだろうか。日本からインドへ原発を輸出しようと、首脳同士が原子力協定の交渉再開で手を握り合った▲被爆地は憤っている。原発という釣りざおは操っているうちに、原爆のもとになるプルトニウムがたまっていく。核弾頭か核拡散までもが「釣果」となりかねない。被爆国が手を貸すつもりなのか▲シン首相が原発をクリーンエネルギーと表現したのはさておき、安倍晋三首相の発言に待ったをかけたくなる。「インドの核不拡散に対する努力を評価する」。それは釣りライバルのパキスタンともども、核兵器を全て手放してからの話では▲インドは潜水艦発射の弾道ミサイル開発にも成功したと伝えられ、南アジアのきな臭さは増すばかり。危ない手つきでさおを振り回してみても、危険な釣果しか得られまいに。

(2013年5月31日朝刊掲載)

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