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社説・コラム

『中国新聞を読んで』 石橋留美子 紙面に憲法コーナーを

 安倍晋三首相が憲法改正に強い意欲を示している。国会発議の要件を緩和する96条の先行改正を参院選の公約に盛り込まない方針は決めたが、9条を含む改憲を目指す姿勢は変わらない。中国新聞は、憲法記念日を中心にインタビューや特集を展開し、社説でも連日取り上げて「憲法を考える」機会を与えてくれた。

 憲法9条は第2次世界大戦の反省に立ち、戦争の放棄と戦力の不保持を掲げて制定された。私の亡き両祖父は戦争体験者だ。一人は戦病死し、一人は足に砲弾を受けて当時のことには口を閉ざした。先祖の足跡があって平和が享受できると、しみじみ思う。

 結党時から「自主憲法の制定」を掲げる自民党のトップとなった安倍首相は、改憲に向けて一気にかじを取りたいようだ。北朝鮮の核実験やミサイル発射、領土問題をめぐる日中関係などの緊迫した状況があり、世論が「改憲も仕方がない」といった雰囲気に流されないかと心配だ。

 3日付の社説は「理想」を掲げる憲法と、「現実」の自衛隊や日米安保体制とのギャップを指摘した。条文解釈でつじつまを合わせてきたが、外国から見れば本音と建前を使い分ける曖昧な日本人の言動は理解できないだろう。

 ただ、改憲ありきの流れには「待った」をかけたい。理想と現実に矛盾はあっても世界に比類のない平和憲法である。間違っても、紛争や戦争に参戦できるよう、現実に理想を従わせてはいけない。

 そもそも夏の参院選で、憲法の改正問題を争点にしていいのかとも思う。ごく限られた時間で、紆余(うよ)曲折を経て今がある憲法の歴史を正しく認識し、改憲の是非を判断できるとは思えない。

 また、衆参両院の憲法審査会で与野党が議論しているさなかだ。政党の数も増え、主張は異なって理解しづらい。中身の議論を後回しにするやり方にも賛成できない。

 参院選まで、わずかとなった。紙面に憲法コーナーを設け、毎日のように報道することはできないか。憲法改正をめぐる各党の動きと論調、その背景にある思惑、仮に改憲した場合の変化が具体的に想像できるよう、分かりやすく伝えてほしい。(読者モニター=益田市)

(2013年5月31日朝刊掲載)

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