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社説・コラム

島根原発は今 安全対策 進む大工事 新基準に対応 再稼働は見通せず

 中国電力が安全対策を急ぐ島根原発(松江市)を訪れた。7月に施行される原子力規制委員会の新規制基準に対応するための工事が進む。約1千億円を投じる一連の工事は2014年度まで続く。ただ、同原発は福島第1原発と同じ「沸騰水型」で、どこまで安全性を高めるべきか結論は見えていない。(山瀬隆弘)

 日本海と新緑の山に囲まれた構内を重機が行き交う。標高50メートルの場所では、地震や津波に襲われた際に事務拠点となる免震重要棟の建設が本格化。黒岡浩平副所長は「想定される最大の揺れにも余裕を持って耐えられる」と語った。海沿いには、想定する最大の津波を上回る高さ15メートルの防波壁がそびえ立つ。

ベントを導入

 3号機のそばでは、重機がアスファルト面を掘り起こしていた。フィルター付きベント設備の工事だ。事故時に放射性物質をできるだけ出さないように蒸気を逃がし、原子炉格納容器の圧力を下げる仕組みを施す。約360平方メートルを深さ15メートルの岩盤まで掘る。巨大なコンクリートの箱を造り、高さ8メートルの円筒形の設備を並べる。2号機でも計画する。

 ベント設備の導入は福島第1原発の事故を教訓にした。福島では、原子炉が冷やせなくなったため蒸気が格納容器に満ちて圧力が上昇。容器や原子炉建屋が壊れ、放射性物質が外部に放出された。

 中電のベント設備は格納容器と地中の配管で結ぶ。事故時に蒸気を配管に流し、外に出す前に、金属フィルターや水溶液で放射性物質を99・9%取り除く。福島第1と同じ沸騰水型の原発は、新基準ではこの設備がないと稼働できない。黒岡副所長は「国の考える安全対策をしっかりと整え、地域の皆さんの理解を得たい」と説明した。

審査後回しも

 格納容器が沸騰水型より大きい「加圧水型」は、ベント設備の必要性が低く設置までに5年の猶予がある。四国電力の千葉昭社長は29日、このタイプの伊方原発3号機(愛媛県伊方町)の審査を、新基準の施行当日か翌日にも申請する方針を示した。同型の関西電力や九州電力も早期の申請、再稼働を目指している。

 中電島根原子力本部は申請時期を「未定」とする。現時点では一度に3原発しか審査できない見通しで、遅れて申請すると審査待ちとなる恐れもある。三菱UFJモルガン・スタンレー証券の荻野零児シニアアナリストは「稼働のハードルが高い沸騰水型は、審査が後回しになる可能性がある。島根の早期稼働は困難だ」とみる。

 また、現在進める安全対策で地元の同意が得られる保証はない。松江市の増本勲原子力専門監は「福島の事故の分析結果が新規制基準にどう反映されたか分からず、中電の対策で十分なのかも判断できない」とする。再稼働の見通しは依然、不透明なままだ。

◆記者の目◆

地域住民の不安拭って

 島根原発で4時間にわたり、中電が「世界最高」とする安全に向けた取り組みを見た。でも、東日本大震災級の事態にも耐えられるのか正直、分からなかった。震災を教訓とすれば、安全対策に完璧はない。中電は現在の取り組みを続けるのはもちろん、丁寧な説明を尽くすことで、地域住民の不安や不信を取り除いてほしい。

(2013年5月31日朝刊掲載)

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