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社説・コラム

中国地方選出国会議員 憲法アンケート 早稲田大法学学術院の水島教授に聞く

 憲法96条の改正論議やアンケート結果について、早稲田大法学学術院の水島朝穂教授(憲法学)に聞いた。

 米独立宣言を起草し、第3代大統領になったトーマス・ジェファソンは「自由な政治は信頼でなく猜疑(さいぎ)によってつくられる。権力は憲法の鎖で縛るのだ」と言った。これが立憲主義だ。憲法の本質は、権力を拘束し、制限する規範という点にある。

 今、憲法に縛られるはずの権力者が、自分で自分の鎖を緩めたいと言う。憲法96条を改正し、変えやすい憲法にするのは立憲主義の軽視であり、憲法の破壊だ。

 発議要件が3分の2から過半数になれば、時の権力者が自分色の憲法にした後、3分の2に再び引き上げて変えにくくすることも可能になる。政権が交代するたびに憲法が政争の具になりかねない。

 安倍晋三首相が意欲を示した96条の先行改正は、改憲派にも不信感を生んだ。自民党の地方組織にも迷いが見られる。中国地方でも同様だ。どの世論調査でも、96条を変えることに賛成する国民は多くはない。

 憲法改正には、三つの「作法」がある。まず、変えようとする側に重い説明責任がある。次に十分な情報の公開と提供。最後に十分な熟議の時間である。今、これらを満たしているか。「96条の先行改正」は、裏口入学を堂々と主張するような恥ずかしいことなのである。世界の国で、憲法改正のハードルを下げるための改正例を私は知らない。

 日本国憲法の徹底した平和主義は、ヒロシマ・ナガサキの体験から生まれたものであり、この憲法の同一性を成している。それを損なう改正は許されない。

 従来の護憲か改憲かの論議は、96条改正が急浮上して流れが変わった。双方の立場を超えた「立憲派」というものが生まれつつある。市民にも立憲主義についての理解が広がり始めた。

 有権者は、憲法論議で思う疑問を、政治家や選挙の立候補者に投げ掛けてほしいと思う。

みずしま・あさほ
 1953年、東京都生まれ。広島大助教授などを経て96年から現職。憲法学者らで5月下旬に発足した「96条の会」発起人の一人。著書に「東日本大震災と憲法」「改憲論を診る」など。

(2013年6月2日朝刊掲載)

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