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社説・コラム

社説 米当局のネット情報収集 告発者捜査は二の次だ

 米国家安全保障局(NSA)などが市民の通話履歴やインターネット上の個人情報をひそかに収集していたことが、英米の新聞によって暴露された。内部告発者は米中央情報局(CIA)の元職員だった。

 コンピューター技術者として情報活動を現場で知る立場にあったようだ。オバマ政権下で市民に対する監視が強化されたことに失望した、と取材に答えている。司法省は元CIA職員に対する捜査に乗り出す。

 だが、「自由」を掲げるこの国の内実に、国内外で批判が高まっている。内部告発者への捜査より先にすべきことがあるのではないか。

 政府機関からの情報漏れに厳罰で臨むオバマ政権の姿勢は、歴代政権に比べて突出しているとの指摘がある。たとえば、「諜報(ちょうほう)活動取締法」という1917年に成立した古い法律の適用件数だ。

 テロ計画を阻止したというスクープ報道に関し、司法省がAP通信記者らの通話履歴をひそかに調べていたことも最近発覚した。裁判所に令状請求し、通信会社から情報を得たという。

 携帯電話など約20回線、2カ月間に及ぶ履歴である。今回の報道だけが捜査対象なのだろうか、という疑念もわく。

 米メディアが「これほど度の過ぎた捜査の網が取材活動にかけられた例はない」と憤り、結束して司法長官に抗議したのは当然だろう。日本のメディアからみてもありえない事態だ。

 政府機関によるネット情報収集が暴露されたことは、IT企業にとっても打撃である。

 膨大なデータを日々収集し、検索対象にする企業が当事者の許諾なしに個人情報を提供していたとなれば、信用失墜は免れない。

 ネット検索大手のグーグル、交流サイト大手のフェイスブックなどは、当局からの情報提供要請の規模などを各社が公表することを認めるよう、直ちに政府に要請した。政府はこれに応じるべきだろう。

 人権擁護団体の全米市民自由連合(ACLU)は「プライバシーの権利などを保障した合衆国憲法に違反する」として、米政府を提訴した。テロ攻撃を防ぐためのプライバシー侵害がどこまで許されるのか、政権のいう「合法」「適法」の根拠を法廷で示すべきだろう。

 米のネット情報収集は外国人も対象で、日本人が含まれる可能性がある。

 米国民を対象にする場合より歯止めがきかないと指摘され、人権に敏感な欧州諸国の反発は避けられない。イスラム諸国では反米運動が再燃する恐れがあるかもしれない。

 ネット社会は急速に広がった。新たな価値やつながりを創造するパーソナルメディアの役割は大きい。

 半面、個人情報が国家によって監視される危険性を私たち一人一人が自覚することも必要だろう。

 オバマ大統領は、自分が腐心しているのはテロ対策とプライバシー保護のバランスだ、と理解を求めている。ならば情報活動の透明性を高め、自国民をテロから守ることに限定する、と声明を発してはどうか。

 日本を含めた国際世論の圧力で行き過ぎにブレーキをかけなければならない。

(2013年6月13日朝刊掲載)

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