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社説・コラム

社説 イラン大統領に穏健派 核問題打開への好機に

 一つ間違えば戦争すら始まりかねない。イランの核兵器開発疑惑をめぐる米国やイスラエルとの対立は、そこまで緊迫していた。新大統領の誕生を事態の打開につなげるべきだろう。

 国際社会との対話と和解を掲げる保守穏健派の聖職者、ロウハニ師がイラン大統領選で圧勝した。核開発を強硬に進め、孤立を招いてきた現政権の路線は、もはや国民に支持されていない、との見方ができる。

 イランや北朝鮮の問題に象徴されるように、このところ核をめぐる世界情勢は被爆地の願いから遠ざかる一方だった。その流れを変える好機にしたい。

 それにしても序盤の劣勢を覆したばかりか、有力とみられた保守強硬派の候補に大差をつけたことも驚かされた。1997年に対外融和を唱える改革派のハタミ師が、圧倒的支持で大統領に就いた日を思い出す。

 勝利の要因はいくつも考えられよう。何より「平和利用」として明らかに不自然な高濃度のウラン製造を続け、米国や欧州連合(EU)から石油の禁輸措置を受けた影響だ。通貨の価値は3分の1に下落し、物価高騰は国民生活を直撃している。

 8年続いたアハマディネジャド大統領の政権を表向きは支持する国民の間に、相当な不満が募っていたと想像できる。

 加えて現政権下で弾圧されてきた改革派と、保守穏健派が投票日を前にロウハニ師の支持で結束し、批判票の受け皿となったことも大きいようだ。

 経済制裁が世論の風向きを変えさせたとすれば、国際社会にとって重要な意味を持つ。欧米諸国がこぞって選挙結果を歓迎しているのも当然だろう。

 ここにきてイランの核問題は完全に袋小路に入っていた。国連安全保障理事会の常任理事国とドイツを加えた6カ国との協議こそ続いているが、イラン政府のかたくなな姿勢で疑惑の解明も進まないままである。

 核兵器保有は時間の問題と考える米国は5月から独自の制裁を強化し、空爆など軍事行動も検討しているふしもあった。

 こうした厳しい状況と、ロウハニ師はどう向き合うのか。

 かつてハタミ政権時代に対外的な核交渉の責任者を務め、自国のウラン濃縮を一時停止させた実績がある。欧米の期待が高いのもこのためだろう。

 一方で核開発は保守強硬派に近い最高指導者ハメネイ師の専権事項とされ、新大統領の意向が反映するかは見通せない。しかも自身は選挙戦において核開発の推進を明言していた。

 とはいえ長きにわたる国際的孤立から、協調外交に転じる環境が整うのは確かだ。平和的解決を願う国民の声を忘れず、指導力を発揮してもらいたい。

 米国も発想を変えるべきだ。軍事力に頼るのではなく粘り強く対話を続け、状況によっては早期に経済制裁を緩める選択肢もあろう。国際原子力機関(IAEA)の査察のもとで核兵器保有を食い止め、平和利用に限定させることはまだ可能だ。

 同時に事実上の核保有国であるイスラエルに、自制を促すことも当然求められよう。

 日本の役割も問われる。イランからの石油輸入は経済制裁に応じて4割減らしたが全面禁輸に踏み切らず、依然としてパイプを保つ。それを生かし、信頼醸成に一役買ってもらいたい。

(2013年6月17日朝刊掲載)

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