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社説・コラム

社説 G8とシリア問題 米露で停戦への道筋を

 世界のリーダーたちがシリアの内戦を終結に導くのではないか。そんな期待がもろくも崩れ去ったといえよう。

 英国・北アイルランドでの主要国(G8)首脳会議で、シリア問題が主要な議題として話し合われた。だが反体制派を支持する米国と、アサド政権に近いロシアの溝は埋まらず、新たな打開策は打ち出せなかった。

 シリアの内戦では2年余りの間に9万人を超える人たちが命を落とした。米国は反体制派への武器供与を決めたという。

 内戦がさらに泥沼化するかどうかの瀬戸際であろう。米ロはともに歩み寄り、停戦への道筋を付けてもらいたい。

 G8各国が合意した首脳宣言には、アサド政権と反体制派を招いて和平を目指す国際会議の早期開催や、化学兵器の使用について国連の調査団の受け入れを求めることなどが盛り込まれた。国際会議の開催は米ロが5月、既に合意していた。だが、いまだに実現していない。

 首脳会議とは別に、オバマ大統領とプーチン大統領は直接の協議もした。ところが、首脳宣言にまとめられた原則論では一致したものの、意見の隔たりは大きかったようだ。

 とりわけ、アサド政権の化学兵器使用について認識が食い違った。オバマ氏が米情報機関の分析から使用を断定したのに対し、プーチン氏は懐疑的な見方を通した。

 こうした現状を踏まえてロシアに望むのは、アサド政権に対し国連の調査団を受け入れるよう強く働き掛けてほしいということだ。

 アサド政権は使用を否定しているにもかかわらず、調査団の受け入れを拒んでいる。非人道的な化学兵器が実際に使われたのかどうかは、中立的な機関によってきちんと調べられなければならない。

 一方、米国に求めたいのは、反体制派への武器供与を思いとどまることである。米国はG8首脳会議前に、アサド政権の化学兵器の使用が確認できたとして、反体制派に小型武器や弾薬類の提供を決めた。

 米国は4月、兵器の国際取引を規制する武器貿易条約が国連総会で採択された際、賛成に回ったはずだ。反体制派への武器供与は条約の精神に反するのではないか。

 国連の潘基文(バンキムン)事務総長も軍事的な支援は事態の収拾につながらないと批判する。米国の武器供与が、さらなる内戦の激化を招くことは否定できまい。

 G8の中で反体制派への武器供与に積極的だった英国やフランスでも慎重論が広がっている。武器が反体制派内のイスラム過激派に流れれば、テロに使われる可能性もあろう。

 オバマ氏とプーチン氏は9月、モスクワで再度、会談する。シリアと盟友関係にあるイランでは、新大統領に保守穏健派のロウハニ師が選ばれた。こうした機会も生かし、米ロは平和的な解決の手段を見いだしてほしい。

 シリアの内戦では、国外に逃れた難民が160万人に上っている。安倍晋三首相はG8首脳会議で、約9億5千万円の緊急人道支援と、難民が流入しているヨルダン政府への約114億円の円借款を表明した。国際社会はシリア国民への人道支援も強める必要があろう。

(2013年6月20日朝刊掲載)

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