×

社説・コラム

社説 オバマ氏ベルリン演説 本気度が問われている

 今度こそ本気で有言実行できるのか、世界が注視している。

 米国のオバマ大統領がベルリンで野外演説し、核軍縮への意欲をあらためて強調した。

 プラハで「核兵器なき世界」を唱えてから4年。実績は乏しく、被爆地を失望させた。そんな中、久々の宣言となる。

 会場となったブランデンブルク門は、「ベルリンの壁」崩壊を象徴する地である。自らの意思を発信するのにふさわしいと判断したのだろう。

 米国はロシアとの核軍縮条約に基づき、ともに配備済みの戦略核弾頭を1550発まで削減する約束をしている。大陸間弾道ミサイルや戦略原潜のミサイルに載せる弾頭である。演説で最も重きを置いたのは、ロシアとの交渉を前提に、計千発レベルとしたいと表明したことだ。

 ただ舞台設定の華々しさとは裏腹に目標は控えめ過ぎる。配備から外すなら、ロシアを待たずにできるはずだ。なおも両国が予備の弾頭などを大量に保有しているのに変わりはない。

 いざとなれば先制攻撃で使う、との臨戦態勢を取る限りは大胆に減らしにくいのも現実だろう。本来、そのような核戦略を根本から改め、踏み込んだ目標を掲げるべきではないか。

 一方のロシアは早くも冷淡な反応をあらわにする。米国のミサイル防衛(MD)によって自国の核ミサイルが無力化されかねない、と反発している。

 通常戦力では米国が世界を圧倒しており、ロシアは核で戦略バランスを取ろうとしている面がある。確かに米国が核兵器の削減ばかり説いても、他国に対する説得力を欠く。

 一方で演説には新味もある。曲がりなりにも条約がカバーしていない戦術核の大幅削減に言及したことだ。戦略核とは違い、短い射程の核である。

 米国は約200発の核爆弾を欧州に配備し、ロシアは領土内に2千発を持つと推定される。欧州での戦闘を想定した「冷戦の遺物」である。テロリストの盗難に遭う可能性などが指摘されながらも温存されてきた。

 削減に道筋が付けば意義はあるがロシアは応じそうにない。米国が率先して北大西洋条約機構(NATO)の前線配備見直しを呼び掛ける必要があろう。

 演説にはオバマ政権として道半ばの課題も、あらためて提示されている。包括的核実験禁止条約(CTBT)の早期発効を目指すと明言し、核問題で国際的に孤立してきた北朝鮮とイランを名指しで非難した。中国など他の核保有国にもアピールする意図もある。

 だが当の米国は、CTBTの議会承認をいまだ得られていない。保守派や軍需産業の抵抗、という米国内の障壁は厚い。オバマ政権は防戦一方にみえる。巨額の予算を割いて戦略核と戦術核の改修を続けるなど、演説との矛盾は隠しようがない。

 核保有が確実視されるイスラエルにどう臨むのかが見えないのも気になるところだ。

 オバマ氏は「同盟国の安全保障を確実にし、強力な抑止力を維持する」と演説で述べた。核の傘を求める日本に配慮したのかもしれない。

 核抑止力に固執する国同士の数合わせでは、核兵器なき世界は達成できないのは明らかだ。オバマ氏は核の非人道性をもっと強く認識すべきである。

(2013年6月21日朝刊掲載)

年別アーカイブ