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社説・コラム

『潮流』 食とイスラム

■論説委員 岩崎誠

 来月の名古屋場所で注目したい力士がいる。エジプト出身の新十両、大砂嵐。角界が受け入れた初のムスリム(イスラム教徒)だ。

 来日2年、部屋にすっかり溶け込んだと聞く。1日5回の礼拝を守り、コーランが禁じる豚肉が入った「ちゃんこ」は食べず別メニュー。親方の配慮のたまものだろう。ムスリムと共生する手本を、伝統の大相撲が示した意味は大きい。

 世界中で17億人のイスラムパワーが存在感を強めている。特に成長著しいインドネシアなどは日本経済にとっても重要だ。やってくる観光客やビジネスマンも増えるに違いない。

 迎え入れる私たちも、彼らの宗教や文化に敬意を払う姿勢が欠かせない。

 だが最近も五輪招致に絡み、イスラム世界への中傷と取られかねない発言が東京都知事から飛び出した。一部の過激派のテロ行為の影響で、ムスリム全体への偏見が拭えない人が今もいるかもしれない。

 かつて松江市で暮らすアフリカ出身のムスリム指導者に、じっくり話を聞いたことがある。「平和を愛し、正直で悪いことをしないのがイスラムの教え」と訴えた言葉が心に残る。

 ムスリムとはどんな人たちなのか。まずは身近な食を通じて考えてみたい。

 「ハラルフード」という言葉が知られるようになった。コーランに基づき、祈りをささげて処理した食べ物を指す。海外の認証機関のお墨付きを受け、イスラム市場へ輸出を図る食品会社も増えているという。留学生などが多い地域では提供するレストランもある。

 たまに立ち寄る東広島市のひろしま国際プラザも、その一つ。昼と夜のバイキングで認証済みの食材を使う。定番のチキンや豆のカレーは考えてみればヘルシーだ。ハラルフードがあちこちの店でメニューに入るようならイスラムへの理解もぐっと進むだろう。

(2013年6月22日朝刊掲載)

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