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社説・コラム

社説 子ども・被災者支援法 政治の怠慢が問われる

 復興庁に出向していたキャリア官僚の「暴言ツイート」問題について、国家公務員法に基づく停職処分がおととい公表された。信用失墜行為であり職務専念義務にも反しているという。

 国会議員だけでなく地方議会までやゆした点に弁解の余地はなかろう。根本匠復興相は「真心をもって被災者に寄り添ってほしい」と職員に訓示し、副大臣は福島県を謝罪行脚した。

 この官僚は「子ども・被災者支援法」に基づく福島第1原発事故の被災者支援を担当していた。だが、法は昨年6月に成立したにもかかわらず、施策の推進に必要な基本方針がいまだに示されていないのだ。

 処分で一件落着と受け止めるわけにはいかない。政治家と被災地のはざまにあって彼が「つぶやき」にはけ口を求めたとすれば、不祥事の背景に何があるのか、考えなければなるまい。

 支援法には、居住、他地域への移動、帰還を選択する被災者の意思を認め、いずれの場合も支援策を講じなければならない―という理念がある。

 福島県から自主避難した人も対象にした法律であり、「被曝(ひばく)を避けて暮らす権利」を認めたといえよう。妊婦や子どもへの特別な配慮も定めている。

 成立したのは民主党政権の時代である。全党派の共同提案による議員立法として全会一致で採決された。政治家はそれをすっかり忘れてはいないか。

 確かに「言うは易(やす)く行うは難し」といえる法律である。基本方針づくりを怠ってきたのは復興庁の責任だろうが、本来は一官庁レベルの話ではなかろう。政治の怠慢といえよう。

 まずもって「支援対象地域」が決まっていない。法では「一定の基準以上の放射線量」としか明記されていないからだろう。この線引き次第で財政負担の規模が大きく変わる。年間1ミリシーベルトが目安なら、実に8県に及ぶという。

 また、対象地域を福島県外まで広げると、農産物などの風評被害が広がるという地元の声もあるようだ。実態調査すること自体が難しいといえよう。

 支援法は国の責務も定めている。原子力災害から国民の生命や財産を保護する責任、原子力政策を推進してきたことへの社会的責任である。むろん、東京電力を免罪するのではない。

 安倍政権も法の理念を順守する立場にあろう。安倍晋三首相は就任して最初の視察地に福島を選び、その後も住民の避難先や風評被害を受ける農村などに足を運んではいる。

 ならば自民党が参院選公約に、「安全性が確認された原発の再稼働」を盛り込んだことは矛盾していないか。最終的には「地元自治体の理解が得られるよう最大限努力する」と修正されたとはいえ、この姿勢で支援法にも取り組むのだろうか。

 高市早苗政調会長は「原発事故で死亡者が出ている状況ではない」と発言し、批判を受けて撤回した。暴言の発覚と時期が相前後したが、これも政治が被災者に寄り添っていないことの証しと思えてならない。

 支援法に不備があるなら、福島県内外の被災者の意見を十分聞いたうえで、改正や新法を議論するのも民主主義だろう。いずれにせよ、これを機に政治は被災者に向き合う姿勢を見せてほしい。

(2013年6月23日朝刊掲載)

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