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社説・コラム

『東京メール』 脚本家 鴨義信さん

脚本家 鴨義信さん(44) 広島市東区出身

映画「夏休みの地図」の企画・脚本を担当

古里舞台 復興を語る

  29日に広島県で先行公開される映画「夏休みの地図」の企画、脚本を手掛けた。小学5年の少年が夏休みの宿題である広島の地図作りをしながら、被爆や復興への思いを巡らせる物語。古里を舞台に選んだ。

 脚本を書いたきっかけは、東日本大震災で大量のがれきを処理するニュースを見たことです。東北地方の町が震災で姿を変えました。広島も原爆で町が破壊され、復興した経緯があります。そして、僕が幼少期に遊んだ広島駅周辺で、再開発が進んでいることを思い出しました。

 その三つが頭の中でリンクしました。町を記憶に残したいという思い。今、語るべき素材ではないか、と。

 試写会での反応を通じ、手応えをつかんでいる。

 原爆を扱っているけど、教科書っぽくしたくなかった。子どもが町を歩き、大人たちに被爆体験を聞いて成長する。その設定ならお客さんも話に入り込めると思った。主役は広島の町。住民でも意外と知らない、美しい風景を見てほしい。

 もともと、文章を書くことは得意ではなかった。

 小さい頃は漫画ばかり読んでいました。平和学習で作文を書く時は升目を埋めるため平仮名で書いた。ただ、妄想することは好きでした。20歳になり、勧められて本格的に本を読み始めました。

 日本映画学校(現日本映画大学)で脚本の書き方を学び、卒業後の1992年に渡米。

 あてもなく、ハワイへ行きました。映画の撮影現場に押しかけ、照明や音声の仕事をしました。その後、知り合った俳優に誘われ、ロサンゼルスへ。映画製作の助手として働きました。自由な雰囲気が肌に合いました。

 99年に帰国後も米国での経験は生きています。海外で多くの人に出会い、差別の問題などを考えるきっかけにもなりました。

  現在はテレビドラマや映画などの脚本家として活躍。物語をゼロからつくることに魅力を感じている。

 深夜のファミリーレストランなどで書いています。物語の世界の深いところへ入っていく感覚や、書き終わった時の快感がたまらない。ただ予算の都合などで10回以上、書き直すこともある。一度つくった世界を壊さなければならず、それが一番難しい。

 今回の映画では、宿泊や弁当の用意、衣装のクリーニングなどで中学、高校時代の仲間に本当に助けられた。やはり僕の「根っこ」は広島。次回も広島で映画を作りたい。海も山もあり、路面電車が走り、原爆ドームがある。食べ物もおいしい。広島は「映画文化の街」になれるはず。映画には発信力があると信じています。(五反田康彦)

かも・いしん
 広島市の白島小、幟町中を経て皆実高卒業。米国で映画製作などを経験し、脚本家に。ドラマ「匿名探偵」(テレビ朝日系)などを手掛ける。企画製作会社「クォーボ・ピクチャーズ」代表。東京都世田谷区在住。

(2013年6月23日朝刊掲載)

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