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社説・コラム

『論』 フクシマは今も「震災中」 去らぬ危機 見つめよう

■論説委員 東海右佐衛門直柄

 危機は過ぎ去っていない。廃炉作業が続く東京電力福島第1原発を今月に入って取材し、実感した。

 水素爆発で建屋の上部が吹き飛んだ4号機は厚いコンクリートの外壁が崩れたまま。配管や鉄骨がむきだしになり垂れ下がった無残な姿は原爆ドームを連想させる。

 1~3号機は炉心が融解し、今も内部の状況把握すら進んでいない。4号機には使用済み核燃料が1533体もある。「再び大きな地震が起きたらどうなるのか…」。恐怖心が胸をよぎった。

 見えない放射線の恐ろしさも感じた。今回、報道陣を乗せたバスで敷地内を巡った。事故対応の拠点である「Jヴィレッジ」で毎時0・1マイクロシーベルトだった空間線量は、原発の敷地入り口で2・7マイクロシーベルトに。原発に近づくたび5、20、120と上がり、3号機近くで1800マイクロシーベルトに達した。1年で許される放射線量をわずか30分余りで超えてしまう値に息をのんだ。

 最長40年かかるといわれる廃炉作業は、緒に就いたばかりだ。格納容器の底にあるとみられる核燃料をロボットでどう取り出すのかなど、技術的な課題は見通せない。

 「今後の作業は相当難しい。国際的にも前例がない」。東電の小森明生常務執行役の説明である。先の見えない中で、関係者の焦りと疲れが蓄積されている。本当に廃炉が完了できるのか、綱渡りの状況にあると感じた。

 周辺の被災地では、複雑な課題も見え始めていた。

 「被災者帰れ」。2万4千人の避難者を受け入れる福島県いわき市の市庁舎の柱に、黒いスプレーの落書きを消した跡が残る。

 昨年末、同様の落書きが市内の計4カ所で見つかったという。さらにことしに入り、避難者の仮設住宅で、車の窓ガラスが割られたり、ロケット花火が打ち込まれるなどのいたずらが続く。

 背景には、避難者と地元住民の感情的な対立がある。

 渡辺敬夫市長は、賠償金の格差や、人口流入による病院の混雑、ごみ出しの習慣の違いなどをめぐり「地元と避難者との間で鬱憤(うっぷん)がたまっている」とみる。「避難者は賠償金でパチンコばかりしている」など根拠のない中傷も広がっているという。

 震災の直後は、見知らぬ被災者同士で食料を分け合い、気丈に励まし合う姿が見られた。世界中から称賛の声が寄せられてもいた。

 しかし、いつ避難生活が終わり、元の暮らしに戻れるのか、先が見えない。過酷なストレスに、人々の心はささくれだっている。一部の被災者同士が反目しあう様子に、胸が痛んだ。

 一方、原発を取り巻く情勢は新たな節目を迎えている。

 関西電力など電力各社は7月8日にも、計12基の原発の再稼働を申請する。原発停止で各社の業績は悪化しており再稼働を急ぐ声が高まる。

 国も再稼働を進める構えである。先日閣議決定された「エネルギー白書」では、民主党政権が「原発ゼロ」方針を決めたことや、国民からの意見公募で9割が原発ゼロを支持した事実がすっぽり抜け落ちた。

 原発を成長戦略としたい安倍政権が、フクシマ後の脱原発のうねりをあえて無視したようにもみえる。

 福島は今も「震災中」だ。なのにあの事故を終わったことにして、それでいいのだろうか。

 私たちは岐路にある。

 原発震災を忘れたかのように、以前の社会へ戻るのか。原発にできるだけ頼らない社会を目指すのか。私たち一人一人に問われている。

(2013年6月27日朝刊掲載)

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