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社説・コラム

天風録 「夏休みの地図」

 発見でいっぱいの学校帰り。ランドセルがまだ重たそうな1年生も、そろそろ道草を始める頃だろうか。そこへ男が切り付けた東京の事件。地域の71歳が立ち向かう。交通安全の小旗を手に子どもを守る一念で▲逃げだした車を通りがかった人が追う。警察との連携プレーで早期解決した。だが児童や地域に残した傷痕の大きさを思う。あの道、この角は不審者に用心―。学区内の危険な場所ばかりが記憶に残るなら、何とも悲しい▲「初めてボクは、生まれ育った街のことを知った」。きのう公開された映画「夏休みの地図」は、そうつぶやく少年ら広島の小学生が主人公。暑い街をはつらつと駆け回り、小さな冒険を通して古里の歩みを学ぶ▲全編を広島でロケした。市民が語る被爆体験や復興の道のりは被災地へのメッセージでもあろう。広島駅周辺で今まさに消えつつある愛友市場なども映る。小さな心に何を残すだろうか▲街だけではない。山間部も離島も変わった。人の消えた家、商店のシャッターばかりが並ぶ通学路もあろう。でも忘れないでほしい。そこに育ったことを。子どもたちがひと回り成長する夏。地域の地図を胸に刻ませてやりたい。

(2013年6月30日朝刊掲載)

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