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社説・コラム

『言』 たまる日本のプルトニウム 「全量再処理」ありきでなく

◆鈴木達治郎・原子力委員会委員長代理

 日本は原発の使用済み燃料からプルトニウムを取り出してウランと混合させ、MOX燃料として再び利用している。ところがプルトニウムは増えすぎ、長崎原爆に換算して5500発分の量に達している。どうすべきなのか。原発維持を主張しつつ、一貫してこの問題を指摘してきた原子力委員会の鈴木達治郎委員長代理(62)に聞いた。(聞き手は論説委員・金崎由美、写真・増田智彦)

 ―なぜプルトニウムの蓄積量がここまで増えたのですか。
 使用済み核燃料はすべてを再処理にする、という原則でプルトニウムを取り出してきたことが大きい。MOX燃料を軽水炉で燃やすプルサーマル発電が再開しても計画通りに進まず、さらに青森県六ケ所村に建設された再処理施設が本格操業となれば在庫はもっと膨らみます。

 ―余剰プルトニウムに厳しい目が向けられています。
 日本は再処理施設を商業規模で持つ唯一の非核兵器保有国です。核不拡散の面から、軍事転用できるプルトニウムを抱えることへの風当たりは想像以上です。最近も米国務次官補が、日本の評価にも傷が付きかねないと警鐘を鳴らしています。

 ―福井県の関西電力高浜原発にフランスで加工されたMOX燃料が搬入され、地元は反発しています。
 すでに再処理されたプルトニウムは早く使うべきだ、という原則とは必ずしも矛盾しません。ですが再稼働が決まらない中でMOX燃料が持ち込まれたことへの反発は理解できます。

 ―どれだけプルサーマル発電をすれば消費が進むのですか。
 日本は再処理を委託した英仏に計35トン、国内に9トンの計44トン分の在庫を持っています。16~18基でMOX燃料が使えれば、六ケ所村で再処理をしても確実に減らせます。

 ―福島第1原発事故の前でも導入は4基。とても現実的と思えません。
 今後の原子力政策の不透明さを考えれば、より柔軟な利用方針が必要だと考えます。英国に在庫分の引き取りを頼むなど、検討に値する案はあります。

 ―ことし3月、「個人の見解」として余剰プルトニウムを出さないためのルールを提案し、原子力委のメールマガジンで発信しましたね。
 全量再処理ありきから、需要に合わせた方針への転換が柱です。いつ、どこでどれだけMOX燃料として使うのか、利用計画を事業者が明確にできた分だけに再処理を限定するのです。

 ―需要に合わせて、というのがポイントですね。
 再処理はもともと、核燃料サイクルの中核とされる高速増殖炉(FBR)の燃料を用意しておくために始まりました。しかしFBRの商用化は遅れ、プルサーマル計画も予定通りに進んでいない。それなのに全量再処理の政策は続けています。

 ―再処理とFBRからの撤退こそ解決策では。
 FBRについては私個人は、国際連携による技術開発で十分だと思います。しかし再処理施設をやめれば、六ケ所村に集められた大量の使用済み核燃料は行き場を失う。一時保管している各地の発電所のプールは平均で7割が埋まっています。六ケ所村のプールはほぼ満杯。雇用や地元経済にも影響する現実も踏まえなければなりません。高レベル放射性廃棄物の最終処分場も決まっていません。

 ―どう解決しますか。
 昨年、原子力委の核燃料サイクル小委員会で、原子力への依存度に応じた政策の選択肢をまとめました。再処理と地中への直接処分を合わせた「併存」案などです。使用済み核燃料を数十年間貯蔵できる場を確保した上で、当面は再処理をする。その間、地中処分の場所選びや技術研究をするものです。将来、政策を柔軟に選べます。

 ―報告はどんな扱いですか。
 関係閣僚の会議に提出して以降、宙に浮いています。報告書原案を一部関係者に事前配布していたことが問題視され、深く反省しました。ただ委員の総意である結論や議論の内容は、政権交代後も生かすべきであり、政策論議が深まらないまま、現状維持で落ち着いたとしたら残念です。報告が前向きに活用されるよう努力したい。

すずき・たつじろう
 大阪市生まれ。75年東京大工学部卒。米マサチューセッツ工科大(MIT)修士課程修了。東京大で工学博士号取得。電力中央研究所研究参事、東京大公共政策大学院客員教授などを経て民主党政権時の10年1月、原子力委員長代理に就任。専門は原子力政策、核不拡散政策など。核兵器廃絶を目指す科学者団体「パグウォッシュ会議」の評議員も務めた。

(2013年7月3日朝刊掲載)

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