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社説・コラム

オバマ大統領のベルリン演説 スタンフォード大・セーガン教授に聞く

核の役割限定「評価を」

依存減らす責任 日本にも

 米国のオバマ大統領がベルリンで先月演説し、「核兵器なき世界」への意欲を説いた。その意義について、広島県の「国際平和拠点ひろしま構想」推進委員として広島を訪れた米スタンフォード大教授、スコット・セーガン氏に聞いた。(論説委員・金崎由美、写真も)

 ―4年前のプラハ演説ほどのインパクトには欠けたようです。どう受け止めていますか。
 核軍縮、核不拡散、核セキュリティーを大統領2期目の重点施策としてあらためて取り組む、との方針は十分に伝わってきた。核の脅威はそこにある、という現実的な認識がベルリン演説の柱だ。評価している。

 ―配備済みの戦略核弾頭を、ロシアとの軍縮条約(新START)で決めた数からさらに削減するのが柱でしたね。
 「ロシアとの交渉」による、としながらも詳細は述べなかった。まずは非公式な削減合意を目指すということだろう。

 条約だと上院の3分の2の賛同を得なければならず、共和党の協力が必要となる。だがオバマ政権の安全保障政策にことごとく反対しており、現実には難しい。新STARTをめぐっても、政権は度重なる妥協を強いられた苦い経験がある。

 とはいえ非公式合意では、約束を守っているかを検証する具体的な手段までは決められない。最後は条約が必要である。米露関係の冷却化は懸念材料だが、折り合う余地はある。米露が動けば、それだけ中国に核軍縮を強く迫る力となる。

 ―米国が率先して一方的な削減をすべきでは。
 多少は可能でも、ロシアから何ら譲歩を引き出さずに大幅に減らせば国内政治がもたない。

 核軍縮は弾頭数だけではない。「役割」を減らすことが肝心だ。ブッシュ政権は化学・生物兵器、さらには通常兵器にも核戦力で対応しうるとした。数の削減は難しい。核兵器の役割限定に触れたベルリン演説はこの点でも違う。前向きに評価してほしい。

 ―言及すること自体は初めてではありません。
 2010年に発表した核政策の長期方針「核体制の見直し(NPR)」で、核拡散防止条約(NPT)を守っている非核国には核攻撃をしない、と初めて明記した。イランと北朝鮮は対象外となる。ベルリン演説で再確認し「核兵器を持とうとしない方が自国の安全にプラスだ」とアピールした。

 ―一部の日本の元政府関係者らは、役割限定が「核の傘」の弱体化につながるとの懸念を非公式に表してきました。
 短絡的な見方だ。北朝鮮にも米国の通常戦力で十分対応できる。

 NPT6条の核軍縮義務は非核兵器国にも課されている。核兵器への依存を減らす責任は日本にもあると考えるべきだ。それが、米国に核軍縮努力を促すことになる。もっとも、自国の防衛力でどう抑止力を保つかという、現実的な議論は必要だろう。

 ―16年の核安全保障サミット開催も提案しました。ぴんときませんが。
 管理が甘く、テロリストに狙われかねない核物質は世界中に広がっている。核兵器なき世界へと近づこうとするほど、撤去した核兵器や、解体後の核物質の安全確保が深刻な課題となる。核セキュリティーの強化は避けて通れない。

スコット・セーガン
 55年生まれ。ハーバード大博士課程修了(政治学)。同大講師、スタンフォード大准教授などを経て01年から現職。統合参謀本部で核政策の立案に携わったほか、08~09年には中期的な核政策を検討するため米議会が設置した超党派の専門家会議「戦略態勢委員会」の作業部会メンバーを務めた。

(2013年7月6日朝刊掲載)

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