×

社説・コラム

社説 原発再稼働申請 収益より安全性重視を

 われ先にと競い合っているようだ。原発の新規制基準が施行されたきのう、北海道、関西、四国、九州の4電力会社が五つの原発について、再稼働に必要な安全審査を原子力規制委員会に申請した。

 各社が再稼働を急ぐのは、火力発電の燃料のコスト高が経営を圧迫しているからだ。原発を動かさなければ、電気料金のさらなる値上げは避けられないという。経済界からも再稼働を求める声が高まっている。

 そうだとしても、電力会社は決して原発の安全性より収益を優先することがあってはならない。福島第1原発事故の教訓であるはずだ。

 新規制基準が従来より厳しいのは確かだろう。炉心溶融など過酷事故への備えを義務づけ、地震や津波の対策を強化した。

 原子力規制委は4月、安全基準としていた名称を規制基準に変更した。田中俊一委員長は「安全基準だと、基準を満たせば安全との誤解を生む」と電力会社に自主的な対策を求める。

 そうした趣旨を踏まえると、きのう申請した5原発の安全性は十分なのだろうか。いくつか首をかしげる点がある。

 まず免震機能を備えた緊急時対策所の設置だ。整備を終えているのは、四電の伊方原発3号機(愛媛県)のみ。九電川内原発1、2号機(鹿児島県)など他の原発は当面、仮設や代替の施設で対応する。

 緊急時対策所は万一、事故が起きた際、現地対策本部を置く極めて重要な施設になる。それが仮設などでよいのだろうか。

 事故時に放射性物質の拡散を防ぐフィルター付きベント設備も気になる。福島第1原発と同じ沸騰水型原発は直ちに設置が求められるが、格納容器が大きい加圧水型は取り付けまで5年の猶予期間がある。

 きのう申請した5原発は加圧水型で、いずれもまだ設置していない。猶予があるとはいえ、早急に整備するのが筋だろう。

 さらに稼働中の関電大飯原発3、4号機(福井県)については、敷地内の活断層の存在が疑われている。

 東京電力もきのう、柏崎刈羽原発(新潟県)の安全審査を申請しようとしたが、できなかった。新潟県の泉田裕彦知事が先週、「東電は安全より、お金を優先したのではないか」と反発したからだ。知事の問い掛けを他の電力会社も真摯(しんし)に受け止めなければなるまい。

 今後も他の原発の申請が続き、中国電力は年度内にも島根原発2、3号機(松江市)について申請する見通し。規制委はたとえ原発1基あたり半年という期間が延びるとしても、厳格な審査が求められよう。

 規制委が原発の安全性を認めた場合でも、再稼働には地元自治体の同意が必要となる。すでに再稼働に前向きな自治体もあるが、多くは依然として慎重な姿勢を崩していない。

 原発の半径30キロ圏の自治体に義務づけられた地域防災計画の内容は十分とはいえない。ヨウ素剤の服用方法や、緊急時の放射線モニタリング体制などがあいまいなケースが目立つ。

 新規制基準を比較的満たしている伊方原発も、愛媛県の中村時広知事は「再稼働に同意するかは全くの白紙」とする。各電力会社は自治体の厳しい見方を肝に銘じなければならない。

(2013年7月9日朝刊掲載)

年別アーカイブ