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社説・コラム

天風録 「1冊の本があれば」

 感動した。そして考えさせられた。16歳の誕生日に国連本部で演説したパキスタンのマララ・ユスフザイさん。世界中の全ての子どもが教育を受けられるようにと呼び掛けた。すっかり回復した彼女の姿も、うれし涙を誘う▲勉強したいと訴えただけなのに昨年秋、頭や首に凶弾を浴びた。少女に銃口を向けたテロリストの心の内が分からない。恐怖の一瞬を「弱さや絶望は消え、反対に情熱や勇気が生まれた」と冷静に振り返る彼女の内なる強さも想像を絶する▲この地球上でいま、6千万人近くの子どもが学校に通えないでいる。とりわけ紛争地が深刻という。それほどまでの「マララさん」を生んだのはどこの誰なのか。正義や民衆のためと言いながら、幼子の笑顔を奪う不毛の争いを続けているのは▲テロは憎んでも憎みきれない。でもマララさんの古里ではいまも異国の無人爆撃機が飛び回る。子どもも巻き添えにする点で何の違いがあろう。憎しみしか生まないことにおいても▲「1冊の本、1本のペンがあれば世界は変えられる。教育こそが解決法なのです」。17分近い演説の締めくくりで彼女は大人の責任を鋭く問いかけた。そう、私たち全ての。

(2013年7月14日朝刊掲載)

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