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社説・コラム

天風録 「日本の顔」

 防災学習も兼ねた草の根ツアーに誘われた。夏休みの小中学生と、広島から東日本大震災の被災地に向かうという。のぞいた説明会で念押しされたことがある。笑顔でピースサインの記念撮影は慎んでほしい、と▲現地には注意書きの張り紙もあるらしい。あの日から2年余り。内と外とのずれを思い知らされる。このたびも「震災後初の参院選」とは、とんと耳にしない。かの地の有権者にどんな顔色が浮かんでいることか▲先ごろ配られた選挙公報に政党の顔が並んでいる。頬を緩め白い歯をのぞかせる候補者がいれば、目力の方を印象付けている人も。要は、板についているかどうかだろう。透けて見える気がするから不思議である▲畑こそ違うがサッカー日本代表の顔、本田圭佑選手は意固地なほど笑顔を見せない。引っ張りだこの企業広告でも眼光鋭く、口元はほえるか真一文字に結ぶ。「代表に必要なのは個の力」と群れず、己を研ぎ澄ます異才にふさわしい▲笑顔には人と人とを結び付ける力がある。ただ本田選手がげきを飛ばした通り、日本の「脱皮」には別の何かが必要なのかもしれない。痛みを強いる改革や復興が笑顔だけで済みそうにはない。

(2013年7月16日朝刊掲載)

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