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社説・コラム

『潮流』 マララさんと朝鮮戦争と

■論説主幹 江種則貴

 心を揺さぶるスピーチに出合った。「1冊の本、1本のペンが世界を変える」。マララ・ユスフザイさんが国連本部で、教育の重要性を切々と訴えた。

 「パキスタンのタリバン運動」(TTP)に銃撃され、かろうじて死のふちから回復した。なのに、その武装勢力の子どもにも教育を、と呼び掛けた。

 揺らぐことのない信念に驚く。事件が彼女をより強くしたに違いない。それにしても16歳とは思えない。

 「天風録」でも紹介したが、後日談があった。当のTTP司令官が彼女に公開書簡を送ったのだ。だが事前に警告しなかったことを悔やみこそすれ、銃撃は彼女がタリバンを批判したせいだと責任を転嫁した。

 「正しい戦争だ」と言いたいのだろう。オバマ米大統領にしても、パキスタンに飛ばしている無人爆撃機を「必要悪」と断言した。市民が巻き添えになっても、テロ掃討のためにはやむを得ないというわけだ。

 身近の「戦争」を思う。1週間後、朝鮮戦争は休戦協定から60年を迎える。つまり戦闘は一時停止にすぎず、まだ終わっていない。

 北朝鮮からすれば、核開発やミサイル実験も、勢力均衡により休戦を続けるための必要悪と言いたいはずだ。理解はできないが。

 この国の政権与党が、自衛隊を国防軍に衣替えするのは時代の流れだと訴えるのも、隣国の緊張が投影されている。

 とはいえ暴力を抑えるために暴力を正当化する。不毛の理屈が数え切れない犠牲を生んだ。人類の愚行の歴史を思えば、60年の休戦は気休めにもなるまい。

 むろん武装を放棄するだけで平和が訪れるわけでもない。では、過ちを繰り返さないためには、いったいどうすれば…。

 それが教育だとマララさんは言いたかったのではないか。大人に奮起を促すスピーチが、心に染みた。

(2013年7月20日朝刊掲載)

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