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社説・コラム

天風録 「風立ちぬ」

 あのスタジオジブリはアトリエの隣が保育園だそうだ。「文芸春秋」の対談を読むと、宮崎駿(はやお)監督は社員の子どもたちの顔を見ては気を取り直したという。構想5年、最新作「風立ちぬ」制作中の苦悶(くもん)はいかばかりか▲もっとも、相手を務めた作家半藤一利さんの受け答えは振るっている。「株の上がる会社よりも、子どもが増えている会社の方がずっといい」。助産師の息子が言うのだから間違いないと、座を沸かせた▲半藤さんの言では、日本という国は「持たざる国」で、四方が海に開けた「守りにくい国」。それを踏まえて生きる知恵や発想に乏しかったのが近代だ。「愛国心がない」と叱られるけれど、脇役でいいんですよね、と▲その持たざる国、守りにくい国が世界の主役に躍り出た戦後。幸運だったかもしれない。でも、いつまでも続くとは思うまい。きょう審判を迎える参院選。「長続きする脇役でいましょう」と訴えた候補者はいただろうか▲「風立ちぬ」は実在の零戦設計者がモチーフ。この種の映画に付きものの会議シーンはないという。宮崎監督によると、描かねばならないのは個人だから。そこに主役も脇役もないのかもしれない。

(2013年7月21日朝刊掲載)

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