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社説・コラム

今を読む 沖縄から見た参院選

「オセロの隅石」死守したが

 参院選は予想通り、自公政権の圧勝に終わった。しかしその中で、沖縄選挙区は、自公政権に真っ向対立する「辺野古新基地反対・普天間飛行場県外移設」を政策として掲げた、野党統一候補で現職の糸数慶子氏が議席を守った。

 県外から見れば、沖縄県知事が「県外」移設要求を維持し、今年1月には県内全市町村長が米海兵隊輸送機オスプレイの配備撤回を求める「東京行動」を実施した後も、沖縄の意思は固くまとまっていると見られているかもしれない。そうであれば、今回の沖縄選挙区の結果は当然視されるであろう。また、沖縄限定の影響しか持たない局地的な結果と解釈されるであろう。

 しかし、実情はそうではなかった。

 2010年の知事選から昨年の衆院選まで、県内自民・保守候補者はこぞって普天間「県外移設」を主張して当選してきた。今回も沖縄選挙区では自民新人の安里政晃氏が、県連が党本部に抗して維持し続けている「県外」を掲げた。この構図は、県内では普天間移設問題を非争点化する。県外に対しては「オール沖縄の辺野古反対」という明瞭な意思表示となってきた。

 沖縄の保守陣営のリーダーの一人が翁長雄志那覇市長である。自民県議、自民県連会長を務め、2度の仲井真(なかいま)弘多(ひろかず)知事の選挙勝利を生み出したと言われる。その翁長市長が昨年11月、全国紙のインタビューで「もう経済振興策も優遇税制も要らないから、基地を持って行ってくれ」と述べた。沖縄の保守政治家として歴史的な発言である。1月の東京行動の代表も務めた。

 こうして自民・保守の政治家が県外を主張し、オスプレイに反対する先頭に立つ、という構図が強まった。ところが今回、重点選挙区として安倍晋三首相らが沖縄に乗り込む中、仲井真知事も翁長市長も当然のことながら、自民候補を応援したのである。

 背景には前回の参院選や昨年の衆院選で、「県外」を公約として当選した自民党議員が今年、相次ぎ辺野古受け入れに転じた状況がある。さらに今回、比例代表で日本維新の会から、辺野古推進を公約とする前浦添市長の儀間光男氏が当選した。沖縄の「辺野古反対」は、強い圧力の下、弱体化してきていた。

 長期的には、沖縄の「革新」政党・陣営の衰退が最終局面に入ったことが、組織的な抵抗を弱める状況をもたらしている。社民党の比例代表で沖縄出身議員が維持してきた議席を、今回取れなかったことも象徴である。

 さらに世代的な変化の大きさが「主体としての沖縄」意識の溶解を生み出している。学生たちと接していると、彼らの沖縄現代史の知識の深刻な欠如、現在の社会・政治諸問題への無関心を、嫌でも認識せざるをえない。「同化政策の最終勝利段階」と私は呼ぶ。県内自治体の首長選や国会議員選挙で当選する自民・保守候補新人の多くが、イデオロギー的に「本土保守」直系の安全保障観を掲げている状況は、沖縄の政治風景が次の10年間で激変する可能性を暗示している。

 このような中での糸数氏の勝利は、短期的には、県民の「辺野古反対」が今も強いことを示す。これは、来年1月の辺野古地元の名護市長選に大きな影響を与える。また、仲井真知事の埋め立て許可申請への判断にも、筋を通した「不承認」決定をするための後押しになる。

 全県規模の選挙結果は重い。長期的、また全国的に、今回の沖縄選挙区の結果は、改憲・右傾化・「戦争のできる国=戦争をする国」に向けてオセロの石が一気に覆されていく今の日本で、オセロの隅石を死守したことになるかもしれない。

 それは、辺野古反対という沖縄の主張は、財政難に苦しみ、軍事予算も強制削減していかねばならない米国の事情に実は合致しているからである。さらに、尖閣をめぐる中国との軍事衝突に「巻き込まれる」ことは避けたい米国の意図にも合致する。

 沖縄が自らの正義を掲げ続け、日本が尊重する。それが日本の国益にもかなうことを強く指摘しておきたい。

沖縄国際大教授 佐藤学
 58年東京生まれ。早稲田大大学院を経て米ピッツバーグ大大学院博士課程満期退学。02年から現職。地方自治、アメリカ政治、日米関係などを研究している。著書に「米国型自治の行方」など。

(2013年7月23日朝刊掲載)

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