×

社説・コラム

社説 防衛大綱 「海兵隊」は必要なのか

 憲法原則に基づく安全保障政策が、根幹から変わる恐れが強まってきた。

 防衛省はきのう、新たな防衛大綱に関する中間報告を発表した。今年中にもまとめる大綱のたたき台となる。

 北朝鮮は核・ミサイル開発を強行し、中国は尖閣諸島をめぐる挑発と海洋進出にまい進している。「安全保障環境は一層厳しさを増している」との指摘は、日本で広く共有された問題意識ではあろう。

目立つ「安倍色」

 防衛大綱は、長期的な防衛力の整備や運用を定める基本方針である。前回策定は民主党政権だった3年前。離島が侵攻された場合や、テロを含め多様な事態にも機動的に対処する「動的防衛力」への転換をうたった。

 次回は2020年ごろと見込まれていた。ところが政権交代後、安倍晋三首相が見直しを指示。それを受けたのが今回の中間報告である。それだけに、安倍政権の意向が強く出ている。

 何よりも表れたのが、「弾道ミサイル攻撃への総合的な対応能力を充実させる必要がある」などと記述したことだろう。

 安倍首相の国会答弁などから「敵基地攻撃能力」の検討を意味するとの見方がもっぱらだ。あいまいな表現は、与党・公明党への配慮だという。

 日本へミサイルが発射されそうだと判断したとき、相手の発射基地などを先制攻撃する能力や装備を持つことを指す。議論は今に始まったことではない。政府は「攻撃の防御手段がほかにない限り」は憲法上可能という考えを踏襲している。

 だが戦争は大抵、先制攻撃を自衛目的だと正当化することで始まる。線引きは難しい。戦後堅持してきた「専守防衛」の一線を越え、政策判断の歯止めを失いかねないとの批判が出てきて当然だろう。

専守防衛逸脱か

 さらに専守防衛の枠をはみ出しかねないのが、「海兵隊機能」を持たせるという提案である。南西諸島での軍事衝突というシナリオも念頭に、自衛隊の「機動展開能力と水陸両用機能」が重要だとする。

 本当に必要だというのか。海兵隊の本来の役割を考えれば首をかしげざるを得ない。

 米海兵隊の中心は、他国への軍事介入などの際、真っ先に前線投入される戦闘部隊だ。専守防衛とは元来相いれない。「日本も海兵隊機能を」となれば、他国への侵攻も可能な装備や能力を持つ恐れが出てくる。

 すでに長崎県の陸上自衛隊西部方面普通科連隊などが、米軍と共同で離島奪還訓練を重ねている。そもそも海岸からの上陸作戦を想定するやり方に、21世紀の紛争対応としてどれだけ現実味があるのか。米海兵隊の世界展開に組み込まれただけ、という結果になりかねない。

 問題は専守防衛の骨抜きだけではないだろう。

 安倍政権は新大綱の策定と並行し、集団的自衛権の行使ができるよう憲法解釈を変更するための議論も進める方針だ。これらの事情も合わされば、中国や北朝鮮だけでなく韓国などほかの近隣諸国までいたずらに刺激しかねない。

 まずは外交努力と対話。最小限の武力行使の可能性が出てくるのはそれからだ。後者が先に突出した印象は、日本の外交と安全保障にはかえってマイナスでしかあるまい。

 自衛隊が真に人と予算を振り向けるべき分野は何か。国民が直面している危機からすれば、災害対応だろう。中間報告がわずかしか触れていないことは、何とも物足りない。

災害派遣に力を

 阪神大震災後の1995年の大綱で、大規模災害時の任務が防衛出動と同格の位置づけとなった。新大綱は、東日本大震災から初めての改定となる。

 災害派遣の現場で得た教訓を反映させるべきだ。防衛費削減の流れの中、自衛隊の後方支援機能が縮小されていたことが課題として指摘された。福島第1原発事故を踏まえ、原子力災害に備える装備や人員をどうするかも問われる。年末の新大綱策定に向けて検討を求めたい。

(2013年7月27日朝刊掲載)

年別アーカイブ