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社説・コラム

社説 原発汚染水の流出 「安全文化」には程遠い

 このまま東京電力だけに任せていいのか。そんな疑問を抱かざるを得ない。福島第1原発事故の処理をめぐり、汚染水が地下から海に流出していたことが明るみに出たからである。

 敷地内の海に近い井戸の水から、高濃度の放射性物質が検出されたのは2カ月前だ。当然、海への影響が考えられる。だが東電側は流出を否定し続け、ようやく先週になって認めた。

 福島沖で操業再開を目指す漁業関係者らの憤りは察するに余りある。東電は対応に問題があったとして広瀬直己社長の減給処分などを決めたが、それで済むと思っていたら甘過ぎよう。

 東電の事故処理の不手際は、これに始まったことではない。3月の停電では仮設の配電盤のバックアップ機能がなかったために、使用済み核燃料の冷却が29時間にわたって停止したことは記憶に新しい。

 加えて今回の汚染水問題でのずさんな対応である。東電側は「社内の連絡体制の不備」とか「漁業の風評被害を心配して公表に消極的になった」などと弁明しているが、それで納得する人がどれほどいよう。

 さらに広瀬社長が事態を把握した今月19日から、地元自治体や漁協への説明までに3日もかかった点にも首をかしげる。東電側は否定するものの、21日に投開票された参院選への影響を考えたふしはないのか。

 そもそも海への流出を認めたのも、国の原子力規制委員会から調査を促されたからである。最大のリスクを想定した上で万全の措置を取る。原子力に携わる会社として当たり前の姿勢のはずだ。3・11の教訓を学ぶどころか、2年以上たっても肝心な点がおろそかになっているとすればゆゆしき問題だ。

 「安全文化」が向上していないことは、広瀬社長も先週の会見で認めざるを得なかった。

 大変なのはこれからだ。東電側の説明によれば海への汚染は原発の港湾内にとどまっているというが、危機感をもっと強める必要がある。というのも現場の原子炉建屋内では汚染水が今も大量に発生し、大きな懸案となっているからだ。

 水を浄化して海に流せばいい。そんな議論もあるが時期尚早だろう。少なくとも今はこれ以上の海洋流出を防ぐよう、汚染水対策を抜本的に練り直すことが急がれる。むろん大きな困難を伴う作業となろう。

 ところが、そこに総力を挙げるべき東電は、柏崎刈羽原発(新潟県)の再稼働の方にエネルギーを投じているように見える。一方で避難生活を余儀なくされている被災者の側からは、賠償をめぐる個別の問題での後ろ向き姿勢が指摘される。

 安全文化を構築できないまま収益重視にかじを切り、福島の事故への対応を後回しにする。そんな空気が社内に生まれているのではなかろうか。

 国の姿勢も問われよう。1年前に東電は実質国有化されている。その目的には、福島の廃炉に向けたプロセスに万全を尽くすことが含まれている。

 茂木敏充経済産業相は今回の情報開示の遅れを批判したが、ひとごとでいいのか。東電が信頼できないなら、政府がもっと責任を持って事故処理に関わる選択肢もある。安倍政権がまずやるべきなのは再稼働の旗振りや原発輸出ではないはずだ。

(2013年7月29日朝刊掲載)

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