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社説・コラム

社説 オスプレイ岩国陸揚げ 沖縄への配慮と言うが

 1年前の光景がそっくり再現された。米国から船便で運ばれた12機の垂直離着陸輸送機オスプレイがきのう、米海兵隊岩国基地に陸揚げされた。

 点検や試験飛行を経て来月には米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)に配備される。機数も行き先も昨年と同じだ。

 沖縄県民がいかに反発しようと、計24機を普天間に配備する計画を着実に実行しているだけと米軍は主張するだろう。ただそこに、普天間から辺野古(名護市)への移設を進めたい日米両政府の思惑が重なる。

 このまま県内移設に反対する限り、普天間は固定化され、オスプレイは居続ける。沖縄の人たちが一種の脅しと受け止めてもおかしくはない。

 オスプレイを沖縄に直接運び込まないのは、そうした県民への「配慮」だとされる。しかし形ばかりの配慮を重ねても、何ら根本的な解決にはならない。

 日米両政府が本当に県民のことを考えているというなら、オスプレイの配備を取りやめるとともに、普天間の国外移設を真剣に検討すべきではないか。

 そんなそぶりは全くうかがえないため、本土側の私たちも疑心暗鬼にならざるを得ない。陸揚げや本土訓練飛行の拠点に岩国を使うのはひょっとして、普天間の県外移設の候補地とする布石ではないのかと。

 だが沖縄でのオスプレイの飛び方を見る限り、積極的に受け入れようとする地域が現れるとは考えにくい。

 沖縄県の調査によると、人口密集地の上空や夜間など、日米で合意したルールを逸脱すると思われる飛行が昨年だけで318件あったという。

 ところが防衛省は「明確な違反は確認されていない」とのスタンスを貫く。そもそも日米合意は随所に「可能な限り」などの前置きがあり、米軍が「運用上必要」と言えば、それだけで違反は問えない仕組みだ。

 菅義偉官房長官がきのうの記者会見で「地元の懸念が払拭(ふっしょく)されていない」と認めたのも当然だろう。ならば、言い逃れできないよう、より厳格な合意へと改定すればいい。

 そうでもしない限り政府は、今後増えるであろうオスプレイの本土訓練も認めるべきではない。低空飛行や騒音に対する不安は解消されないからだ。

 気になるのは、今回の陸揚げと機を同じくした米太平洋空軍司令官の発言である。空軍仕様のオスプレイを将来配備する候補地として、沖縄県の嘉手納基地や東京都の横田基地を挙げた。ルール違反の飛行が、なし崩し的に増える懸念がある。

 もっとも司令官の発言については、オスプレイは沖縄にいなくても役割を発揮できる、といった解釈も成り立つだろう。

 従来のヘリコプターに比べ、オスプレイは飛行速度で2倍、搭載量で3倍、行動半径で4倍の性能を持つ。横田基地と言わず、グアムやハワイを拠点にしても十分ではないか。

 そもそもオスプレイは兵員や装備を前線に運ぶ輸送機であって戦闘機ではない。離島防衛の抑止力となり得るかどうか、異論がくすぶり続けるゆえんだ。

 本質的な議論がないまま、基地周辺や訓練飛行ルート直下の住民が諦めるのを待つ。そんなやり方をいつまでも続けていい道理はない。

(2013年7月31日朝刊掲載)

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