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社説・コラム

社説 世界経済人会議 平和貢献 何ができるか

 被爆地発の議論として、これまでと少々違った切り口となったことは確かだろう。

 国内外の経済人や非政府組織(NGO)のトップらが集う「国際平和のための世界経済人会議」がおとといまでの2日間、広島市内であった。「新しい平和貢献のあり方」をテーマに議論した。

 国際的な企業活動も平和があってこそ。裏を返せば人的交流を伴うビジネスは、国家間の緊張を抑止する力にもなりうる。企業も平和の担い手である、という認識をまずは共有することが狙いという。

 本業の技術を生かし、紛争後の復興に貢献している実例が紹介された。ある建設機械メーカーは対人地雷を除去する重機を開発し、カンボジアなどで活用されているという。

 「地域振興や経済面のメリットだけでなく、平和への貢献としても観光を捉えたい」という視点からの議論も交わされた。

 国境をまたぐ往来は、市民レベルの異文化理解や相互依存を深める。それが紛争や対立の芽を摘むことにもつながる。そんな意義が強調された。広島については特に、外国人観光客をさらに呼び込むための環境整備が必要だとした。

 会議は広島県が主導する平和発信事業「ピース・アーチ・ひろしま」の一環として開催された。世界の平和を脅かす課題は実に多様である。紛争国の復興や平和構築に向けた課題は、広島から発信するには幅広すぎるとの異論もあろう。

 とはいえ、核兵器開発や核テロを企てる背景には国家間や国内の緊張関係がある。往々にして、国内経済の疲弊と貧困、差別や抑圧が影を落としている。これらにしっかりと目を向けること自体は被爆地の責務から決してずれてはいまい。

 一方、会議ではさまざまな課題や限界も垣間見えた。

 国際社会への貢献といっても、中小企業にはハードルが高いという意見が聞かれた。そもそも環境問題と比べ、企業の社会的責任(CSR)をめぐる取り組みとしてはなじみが薄い、という指摘も。企業の意識改革はもちろん、株主、さらに世論が支持、後押しするかが問われているということだろう。

 営利追求が企業の目的である。現実には平和構築と相反することが少なくない。

 講演した日本総合研究所の寺島実郎理事長は「マネーゲーム化した世界は必然的に格差と貧困を生む」とし、資本主義の極端なゆがみを問題視するべきだと警鐘を鳴らした。ビジネスと平和を語るなら、グローバリズムの弊害からも目をそらすわけにはいかない。

 世界の軍需産業が兵器の開発・製造や核兵器の維持を担い、大きな利益を得ている事実も直視すべきだ。

 安倍政権は武器輸出三原則を事実上撤廃する方針を示している。日本企業が国際共同開発に参加した兵器が、紛争に投入される恐れが指摘されている。会議では議論されなかったが、日本もひとごとではない。

 次回開催はいまのところ決まっていないという。税金を投じた試みが県民の支持を得るには、さらに先が問われよう。広島の原点である核兵器廃絶への訴えに、より普遍性と説得力を持たせる存在感を求めたい。

(2013年8月2日朝刊掲載)

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