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社説・コラム

『書評』 福島と原発 福島民報社編集局著 誘致50年 下ろせぬ「荷」

 副題は「誘致から大震災への50年」。まるで戦後日本の縮図を見るようだ。福島原発が立地する福島県双葉郡は東は太平洋岸に沿って30メートルの絶壁が続き、西は阿武隈山系で内陸と遮られる。農業は霜害と長雨に悩まされ、良港は少ない。

 原発誘致運動は1960年にさかのぼる。大熊町幹部が「毎年秋になると寂しかったな」と当時を回顧する。冬場に農家の働き手は遠くのダム建設現場などへ稼ぎに出た。町財政は火の車で、給料遅配に管理職までスト状態。それが一変した。

 本書は声高に反原発を主張するものではない。だが積み重ねた取材は、下ろすに下ろせない50年の「荷」の重さを、これでもかと読み手に突き付ける。

 たとえば第6部「攻防、電力マネー」。核燃料税をめぐる70年代の舞台裏は生々しい。原子炉に核燃料を入れた段階で課す税。2010年度は46億円の収入があった。

 福島県は原発立地の負担に見合う恩恵が乏しいと、国に導入を掛け合う。当初は福井県の特例だと応じず、申請書類の様式も教えない。そこで東京電力を味方につけ、福井県に原発を持つ関西電力の情報に基づいて申請にこぎ着けた。

 だが、算定基礎になるウラン燃料の値下がりなどで税収は先細りする。税率の大幅引き上げしかない。今度は東電相手のバトルが始まるのだ。

 読むうちに一つのパラドックスが見えてくる。事故が起きた時の対策を考えると巨額の予算が必要で、電力マネーは手放せない。原発にさらに依存せざるをえないという構図だ。税収確保のために新たな事業を探す。郡内の学校をシェルター化する構想まで浮上していた。

 原発事故はいまだ収束していない。169回の連載をすべて収録した本書は「県民紙として福島第1原発をその最後まで見守っていかなければならない」と結んでいる。(佐田尾信作・論説副主幹)

早稲田大学出版部・2940円

(2013年8月4日朝刊掲載)

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