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社説・コラム

天風録 「ヒロシマの顔」

 年輪を刻んだ穏やかな表情ながら、苦難を生きた強さが伝わる。広島市立大で油絵を専攻した学生たちが描く被爆者の肖像画。原爆の日のきのう、平和記念公園内の会議場に31点が並んだ。まっすぐなまなざしが印象的だった▲被爆者の体験に耳を傾けたうえで、キャンバスに向かう。大学院2年の女子学生は、爆風で大けがをした夫を捜して入市被爆した87歳の女性に何度も話を聞いた。丁寧に仕上げた絵はヒロシマの顔ともいえる▲平和記念式典に出席した被爆者や遺族もそうだろう。ずっと下を向いたままの老いた人も。8時15分になると、そっと手を合わせた。原爆が奪った大切な人の、変わらぬ顔を思い出していたのかもしれない▲神妙な面持ちだったのは安倍晋三首相である。松井一実市長は平和宣言で核兵器を「絶対悪」とし、廃絶を求める国々と連携を強めるよう政府に迫った。首相はどう受け止めてくれただろうか▲顔は人生を語るという。市立大の学生たちが肖像画を描き始めて10年目。被爆者の高齢化が進み、モデルになってもらった後に亡くなった人もいる。ヒロシマの顔を一人でも多く、キャンバスと記憶の中にとどめてもらいたい。

(2013年8月7日朝刊掲載)

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