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社説・コラム

『この人』 被爆死した元タカラジェンヌの生涯を朗読劇で演じた俳優 春風ひとみさん

無念の役者の生涯熱演

 「戦争は嫌だ。私は芝居がしたい」。約100人の観客に、ひときわ通る声で訴えた。6日、原爆の犠牲になった元タカラジェンヌ園井恵子さんの生涯を伝える朗読劇を、広島市中区で一人演じた。

 劇は、宝塚のスターだった園井さんが新劇に移り、移動演劇「桜隊」の一員として巡業先の広島で被爆。終戦の6日後に32歳で亡くなるまでを描く。園井さんの思いを記録に残そうと、2010年に書き下ろされた。完成前の台本を読み使命感に駆られた。「原爆に散った無念の役者がいたことを、同じ宝塚出身の自分が語り継いでいかないといけない」。出演を熱望し、会場探しに奔走。広島での初演にこぎ着けた。

 園井さんの人生が自らに重なるという。入団10年目の1988年、演技の幅を広げたいと退団し、舞台の世界へ飛び込んだ。スペイン戦争を生き抜いた家族を描いた一人ミュージカル「壁の中の妖精」が代表作。17年間かけて全都道府県を回った。

 退団後しばらくは、宝塚と違う表現法に苦しんだが、「五感と肉体を駆使して直接に伝えられる役者の面白さ」に取り付かれた。だから「生きて存分に芝居に打ち込めるはずだった園井さんの人生を奪った原爆のむごさ」を痛感する。

 園井さんの誕生日は、8月6日。ことし生誕100年を迎えた。「見た人が園井さんの最期を胸に納め、今生きている幸せを実感してくれれば」。今後は全国での公演を目指す。6日は朗読劇に先立ち、桜隊をしのぶ中区の殉難碑前で慰霊式に参列した。東京都在住。(新本恭子)

(2013年8月7日朝刊掲載)

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