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社説・コラム

天風録 「イランの風」

 イランの首都で2年前、地下鉄の女性専用車両に乗った。痴漢よけではない。宗教上の理由で一日中走らせているらしい。菓子や下着を威勢よく売りさばく行商人。頭に巻いたスカーフを緩めては髪留めを見せ合う学生。男子禁制の異空間がかしましかった▲下車すればこうはいかない。「外国人だからと油断しないで」。髪や肌をしっかり覆い隠しているかどうか、警察が目を光らせているという。イスラム文化は尊重したいが、無理強いされると息苦しい▲ペルシャの言葉に「風を結ぶ」というのがある。美しい響きとは裏腹に、可能性ゼロの例え。アハマディネジャド政権の圧政を転換させるのは、風を結ぶに等しいと思えた。そこへ変化の風となるか▲穏健派のロウハニ師が大統領のいすを継いだ。注目は、世界が気をもむ核開発問題だけではない。「女性の権利向上が最優先課題だ」と選挙戦で訴えていた。だがこの国では大統領より宗教指導者の声が絶対のはず。一筋縄ではいかないかも▲あの専用車両で触れた自由な笑顔は、まぶしい太陽にこそ似合う気がする。まずは小さな風を集め、大きく育てることから。追い風がぱたりとやまないうちに。

(2013年8月8日朝刊掲載)

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