×

社説・コラム

天風録 「母子三人像」

 防空頭巾にもんぺ姿の母は胸に乳飲み子を抱く。傍らに体をすり寄せる幼子。福山市の中央公園に母子三人像が立つ。68年前の8月8日、福山空襲で犠牲になった人たちの慰霊碑である。きのう碑前で市民が花を手向けた▲夜中に焼夷(しょうい)弾が降り注いだ。82歳の星野由幸さんは家族が散り散りになる中、「もう死のう」と繰り返す母親を励まし、やっとの思いで生き延びた。延焼しない方角へと、田畑に逃げた姉は弾の直撃を受けて息絶えた▲「涙で話にならん」。そう言って人前で証言してこなかった星野さん。2年前、初めて母校の後輩に語った。だが母と逃げ惑う場面では、やはり涙が止まらなかった。その語りは克明に記録され、今は冊子になっている▲つらい記憶の「ふた」は重いに違いない。そんな証言者を後押ししようと福山市老人クラブ連合会が立ち上がった。あす、福山空襲の体験を語る会を市内で催す。今聞いてもらわなければ、つなぐことができない。危機感だろう▲語る勇気をしっかり受け止めたい。何度も重いふたを開けてもらわぬよう文字や映像にすれば、貴重な語りが生きてこよう。焦土の日を昔日のかなたとしない覚悟のために。

(2013年8月9日朝刊掲載)

年別アーカイブ