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社説・コラム

天風録 「島と戦争」

 雑草をかき分け進む。古びたれんがの建物や堅固な二重構造のドームがこつぜんと現れた。呉市は倉橋島の亀ケ首一帯に広がる旧海軍試射場跡。地元の観光ボランティアに案内してもらい、あの時代に迷い込んだ気分に▲住民を遠ざけた岬の秘密基地。「大和」も含む艦砲の発射実験が繰り返された。海へも堂々とぶっ放したというから物騒な話だ。岬の形は変わり、暴発も絶えなかったようだが全容はベールに包まれる▲古来の造船業や万葉ロマンの島のもう一つの顔。山を隔てる集落にいた87歳の迫越将史さんに聞いた。試射のたび地震のようで「終戦時にまともな家は一軒もなかった」。大和には盛んに光が当たるが、泣かされた庶民の記憶も伝えねばと思う▲島々が戦争一色だった瀬戸内。毒ガス工場ができて地図から消えたり、防空壕(ごう)で穴ぼこになったり。輝く海の景色に魅せられる観光客の皆さんも、きょうばかりはあの時代に思いをはせてほしい▲無言の証人の役目も重くなる。週末には巨大な地下工場があった倉敷市水島で戦争遺跡保存に向けたシンポも。ただ、かの亀ケ首は保存の手を打たないままと聞く。夏草に埋もれた記憶をどう残すか。

(2013年8月15日朝刊掲載)

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