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社説・コラム

天風録 「短い式辞」

 晴れ着やスーツは暑い中、つらかったに違いない。お盆の成人式に出席した若人たち。大人になるための苦行といえよう。極め付きはお偉方のあいさつ。期待の言葉をかみしめたか、長くてうんざりしたか▲こちらのあいさつは肝心な言葉を欠いて終わった感がある。戦没者追悼式での首相の式辞。アジア諸国への加害と反省に触れず、不戦の誓いも消えてしまった。「言わぬが花」では許されない。繰り返し語るべきだろう▲戦争はもう絶対やめてほしい―。はっきりとした訴えが同じ会場で聞かれた。夫が南方で戦死した参列者で最高齢、99歳の女性の実感がこもる。形見である家族写真を支えに、戦後を生き抜いた。首相式辞をどう聞いたろう▲戦争を知る人の声を聞けなくなる日が遠からず来る。言うべきことを残し、聞くべき体験を胸に刻みたい。不戦の誓いこそ、戦没者や高齢化する遺族の安らぎとなるはず。次代担う若者へのメッセージにも▲靖国神社には玉串料奉納にとどめた首相だが、在任中に参拝するかは「言わない」。同じくだんまり。党公約でうたう国防軍創設も最近はあまり口に出さないけど、本音やいかに。こちらは聞かぬが花か。

(2013年8月16日朝刊掲載)

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